日本公衆衛生雑誌
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自殺対策基本法制定20周年を振り返る:自殺実態の把握
野村 恭子影山 隆之山内 貴史佐々木 那津瀧澤 透太刀川 弘和反町 吉秀竹島 正
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論文ID: 25-060

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抄録

目的 2006年に自殺対策基本法が制定され,2026年は20周年を迎える。この節目に,これまでの我が国の自殺対策を専門家とともに振り返ることを目的に,第83回日本公衆衛生学会総会において,「自殺対策基本法制定20周年:自殺実態の把握」をテーマにシンポジウムを開催した。

方法 我が国で自死対策を加速化するために,どのような対策が求められているのか,自殺の実態を把握する上での課題を抽出・整理した。

結果 自死対策の歴史からみる現在の課題として,自殺対策基本法や調査研究等推進法の課題を丁寧に見直し,必要に応じて改正を進めていく必要がある。自殺対策基本法に,次世代の自殺対策を担う多分野にわたる専門人材の育成や,自死遺族が政策づくりに関わる仕組みを取り入れることも重要である。統計上の問題点としては,2021年までと2022年以降の自殺統計では原票見直しの影響による顕著な「見かけ上の変化」が生じており注意が必要である。自殺死亡も含めた外因死および死因不詳の死亡が上昇傾向にあり,動向を丹念に分析することが必要である。また地域の自殺実態の把握として,市町村が利用できる警察統計があるが,市町村別集計は地域自殺実態プロファイルを参照しながら,自傷・自殺企図に至る過程を考える必要がある。国の統計とは別に市町村で自律的にできる調査・研究を立案することも自死対策において重要である。自死関連行動は多様な因子が複雑に絡む現象であり,国の対策は地域の主体的な取組と連携すべきである。

結論 今後の自殺対策をより良くするために,以下を提案する:(1)法制度の見直しと多様な関係者による支援体制の構築,(2)専門人材の育成と遺族の政策参画,(3)統計の見かけ上の変化への丁寧な分析,(4)市町村レベルでの自律的な調査研究の推進。継続的な知見の更新と学際的な議論を通じ,実践に活かすことが期待される。

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