抄録
インシデント報告(IR)に基づく事故関係者へのヒアリングは重要な安全活動である.一方,医療機関は人や時間が不足しており,情報が少なく,不明点が多いIR を十分に調査できない恐れがある.本研究はIR の質がヒアリング時の質問内容に与える影響を検討した.質が高いIR とは,インシデントに関わる情報が多く,読み手が出来事を理解しやすいことと定義した.事故調査経験者11 名,未経験者15 名に質が異なる架空のIR を3つ示し,各IR に対して対象者が列挙した質問の傾向を分析した.結果,質の低いIR では出来事に関する調査者の推察に基づく質問が多く,質が高い場合はIR に基づいて事故要因を深堀する質問が多かった.また,質の低いIR では,事故調査未経験者は経験者に比べて「人」に焦点を当てた質問が多かった.人,もの,環境,管理等に焦点を当てた質問が重要であるが,質が低いIR では事故要因を深堀する質問が少なく,ヒアリングが調査者の経験に依存するという弊害が明確になった.