石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
α-メチルベンジルヒドラゾンの自動酸化
大勝 靖一吉野 健司鶴田 禎二
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1983 年 26 巻 4 号 p. 272-279

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抄録

ヒトラゾンの自動酸化は, 窒素の酸化された生成物が生成しないという非常に興味ある反応の一つである。今までの研究では, アゾ-ハイドロパーオキサイド化合物が生成するという報告1)~3)があり, また一方でこのアゾ-ハイドロパーオキサイドの分解に由来する生成物も得られている4)。しかし, これらの反応に対する詳細は明らかにされていない。著者らは, 前報においてアセトフェノン(α-メチルベンジル) ヒドラゾンの自動酸化を行い, その反応機構をある程度まで明らかにした。本論文では3種類のヒドラゾンを合成し, その酸化反応の全容を明らかにし, 触媒として用いた金属錯体の作用様式について議論した。
ヒドラゾン, たとえばアセトフェノン (α-メチルベンジル) ヒドラゾン (以下, ヒドラゾンI)は, 触媒の有無にかかわらず, 自動酸化の機構で容易に酸化された。その速度は非常に速いために, 通常のラジカル捕捉剤を添加しても, 反応が完全に禁止されるわけではなかった (Fig. 1)。ヒドラゾンの酸化速度の順序は, ヒドラゾンI>プロピオフェノン (α-メチルベンジル) ヒドラゾン (以下, ヒドラゾンII)≫エチルメチルケトン (α-メチルベンジル) ヒドラゾンの順であり (Fig. 2), 触媒としてはCo(II)>Ni(II), また配位子TPP>シッフ塩基の結果を得た (Fig. 3)。
Table 1およびTable 2は, それぞれヒドラゾンIおよびヒドラゾンIIの酸化生成物の分布を示す。この結果から, ヒドラゾンのα-アルキルベンジリデン残基からは酸化生成物としてケトンだけが生成し, α-メチルベンジル残基からはエチルベンゼン, スチレン, アセトフェノン, α-メチルベンジルアルコール, 2,3-ジフェニルブタンの生成することがわかった。
アセトフェノンとα-メチルベンジルアルコールとの生成比はFig. 5の通りであり, ヒドラゾンの転化率が50mol%を境にして急激に増大した。これは, Table 3の水素供与体の存在下における反応結果からも理解できるように, 一度生成したα-メチルベンジルアルコールが水素供与体として働くようになるための現象と考えられる。
Table 4には, 不斉の配位子を有する錯体を触媒として用いた場合に得られる酸化生成物, α-メチルベンジルアルコールの比旋光度と光学収率とを示してある。ヒドラゾンIIからも, ヒドラゾンIの場合と同様に5), 不斉の誘導されることが見い出された。
上述の結果, およびESRで観察されるCo(II) 錯体で活性化された酸素種, O2- (Fig. 6) の, ヒドラゾンの添加による消失とそれに続く酸化の開始という事実に基づいて, 酸化反応の機構をEqs. (1)~(9) のように推定した。

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