環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 環境社会学のパースペクティブ
環境社会学の所有論的パースペクティブ―「グローバル・コモンズの悲劇」を超えて―
池田 寛二
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1995 年 1 巻 p. 21-37

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抄録

今日、環境問題を研究するうえでもっとも重要な課題のひとつは、地球環境問題を地域環境問題と相互に関連づけて解明できる枠組みを構築することである。そのためにはまず、世界の諸地域において人々はどのように環境に働きかけているのか、という基本問題に立ちかえる必要がある。この問題にアプローチするために有効な枠組みとなるのが所有の概念である。

所有とは環境をめぐる社会関係を意味している。従来の環境問題のとらえ方は、「コモンズの悲劇」論のように、所有を社会関係として理解する視点を欠いていたため、私的所有対共同所有という二項対立を絶対視し、環境と人間社会とを結びつけている所有の多様性と複合性を捨象する傾向があった。本稿は、所有の地域的・歴史的多様性を幅広く把握し得る類型論を試み、それが地球環境問題と地域環境問題とを関連づけて理解するために有効であることを例証することによって、環境問題研究における所有論の欠落を補おうとするものである。

類型論では、環境問題を所有の視点から理解するには、自然人所有と法人所有の対立を軸にして得られる共同占有・共同所有・私的占有・私的所有・専有・個体的所有・私的法人所有・公的法人所有・管理の9つの所有類型が有効な分析枠組みになることを明らかする。

そして、現代の地球環境問題は「グローバル・コモンズの悲劇」ではなく、世界の諸地域において、国家や企業を主体とする法人所有がグローバルな市場システムと結びついて自然人の多様な所有の可能性を排除することによって連動的にひき起こされている社会問題にほかならないことを、主にインドネシアの森林問題を取り上げて例証する。

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© 1995 環境社会学会
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