環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 環境社会学と「社会運動」研究の接点─いま環境運動研究が問うべきこと─
琵琶湖をめぐる住民研究から滋賀県知事としての政治実践へ――生活環境主義の展開としての知事職への挑戦と今後の課題――
嘉田 由紀子
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2018 年 24 巻 p. 89-105

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抄録

学会誌20号では「環境社会学のブレイクスルー」が特集され,池田寛二は「環境社会学は総じて環境政策への実用的貢献は小さいように見える」と指摘,「グローバル化」「サステイナビリティ」「レジリエンス」の3言説のもつ統治の道具としての危険性を自覚しつつ,ブレイクスルーのための方策を提示している。そのひとつ,福永真弓は「サステイナビリティ」言説が統治の道具に転倒されないために飯島伸子による「被害運動論」と鳥越・嘉田らによる「生活環境主義」に埋め込まれた「現場主義」の「よりそい」方法論を「環境正義論」とあわせて提起する。

本論では1980年代以降の生活環境主義の成立,生活者起点というパラダイム転換から生まれた住民参加による琵琶湖博物館づくりや淀川水系流域委員会での治水政策の議論を経て,2006年の滋賀県知事選挙で訴えられた「みっつのもったいない政策」を生活論と運動的から分析したい。あわせて知事2期8年間の環境政策のうち「①ダムだけに頼らない流域治水」「②水田の多面的機能再生をめざす魚のゆりかご水田」「③森林の多面的機能再生の巨樹・巨木保全」「④琵琶湖の文化的価値自覚のための日本遺産」「⑤琵琶湖への放射性汚染を回避するための原発政策」について紹介し,「環境正義」を未来にむけて活かすにはどうするべきか,今後に残された課題と期待を展開したい。

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