2023 年 29 巻 p. 123-137
近年,全国各地で風力発電の事業計画が自治体や住民からの反対を受けて撤回される事例が増加している。エネルギー転換が急務となる一方で,その移行を公正に進めるためには「なぜ論争が繰り返されるのか」という分析が必要だろう。また,再生可能エネルギーのリスクガバナンスに関する研究が蓄積される一方で,論争が生じる過程を分析しなければ,その実践を阻害してしまう可能性がある。本稿は,風力発電をめぐり環境論争が繰り返されている山形県の事例を対象とする。
山形県は,2012年に「卒原発」社会を目指すという指針を示し,再生可能エネルギーの県内の発電ポテンシャルの調査結果を公表した。しかし,風力発電所建設の候補地の1つである庄内海浜県立自然公園内で計画された山形県企業局と酒田市による事業に対して論争が起きた。
本稿はリスクガバナンスの視点から関係主体の語りを分析した。その結果,論争的な風力発電事業における各主体の問題関心,問題の切り取り方は過去の論争に紐づいており,「卒原発」というフレーミングや再生可能エネルギーの適地可能性調査に基づくゾーニングだけではその膠着状態を変容させるには至らなかったことがわかった。一方で,各主体の利害関心を「ときほぐす」ことによって海岸林に関して関心が重なっていることがわかり,ここに問題設定をずらすことによって,ガバナンスの結節点を新たに設定できる可能性を示した。