2023 年 29 巻 p. 53-70
ソーシャル・イノベーションは,市場のダイナミズムを生み出す企業家精神を利用し,社会問題に対して新たな解決を創造する諸活動として捉えられてきた。経営学における社会企業家研究は,社会企業家が実行する新たな価値を伴う革新の方法に正当性を求めてきた先行研究のイデオロギー性を批判する。そのうえで,ステーク・ホルダーとの関係的実践に倫理の達成を見出そうとする経営倫理研究における実践的転回に基づき,ソーシャル・ビジネスがいかに倫理的なモノとして構築されるのかについて社会企業家の具体的行為に注目するという新たな理論的視座を提示してきた。本稿ではこの新たな理論的視座に基づいて,①社会企業家を分析起点にしつつ,社会企業家がソーシャル・ビジネスを構築していく際に関係を取り結ぶステーク・ホルダーの利害を読み解き,②共通する利害としてソーシャル・ビジネスを構想していくことに注目する。次に,ソーシャル・ビジネスの実現について,共通の利害と化したソーシャル・ビジネスの実現に紐づけられた,社会企業家とステーク・ホルダー間の交渉と応答のプロセスに注目していく必要性を指摘する。そのうえで,東京都多摩地域を中心として,多摩産材を用いた地産地消の高性能住宅の建設・販売事業を目的として活動する,TOKYO WOOD普及協会の事例分析を通じて,社会企業家とステーク・ホルダーそれぞれの利害がソーシャル・イノベーション活動へと昇華されていくのかについて明らかにしていく。