植物学雑誌
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海洋植物プランクトンの光合成特性とその生態学的意義
市村 俊英西条 八束有賀 祐勝
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1962 年 75 巻 888 号 p. 212-220

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抄録

1960•1961両年夏季に本州東方海域で, C14を用いて海洋植物プランクトンの光合成を種々の条件下で測定し, 光合成の特性を明らかにするとともに,その生態学的意義を検討した.
黒潮•親潮両水域では表層の植物プランクトンと深層の植物プランクトンの間に光合成型の分化が認められた. すなわち, 表層のものは陽生型, 深層のものは陰生型であった. 混合水域の植物プランクトンではこのような分化は認められなかった.
光合成の強光阻害が明らかに認められた. 強光阻害は表層のものでは少なく, 深層のものほどいちじるしかった. また表層のものでも黒潮水域より親潮水域のものの方が阻害がいちじるしい. しかし, 異なった強光阻害を示す光合成曲線を用いて, 一日当たりの生産量を算出して検討した結果, クロロフィル法で基礎生産を求めるばあい, 快晴の日以外は強光阻害を特に考慮しなくてもよいという結論がえられた.
水温を変えたばあいの光合成曲線は, 光が強いときには水温が高いほど大きな値を示すが, 光が弱いところでは水温に関係なく同一線上に重なり, また一般に海洋でいちじるしい水温の低下が認められる深度の光は表面の50%以下に弱まっているから, クロロフィル法では弱光下で光合成をあつかうかぎり, 水湿の影響を特に考慮しなくてもよい.
親潮水域の表層の植物プランクトンの最適照度における単位クロロフィル量あたりの光合成値は黒潮水域のものの3~5倍であった. この違いはクロロフィル法で基礎生産を求めるばあいに考慮する必要がある. 最適照度における光合成値は環境によって違ってくるが, 同一水域内ではかなり広範囲にわたっていちじるしい変化は認められない.
以上のことから, 海洋の基礎生産の調査にあたっては, 各水域ごとに表層の植物プランクトンについて代表的な光合成曲線をつくり, これと植物プラクトンの現存量および光条件から各水域の基礎生産を求めるのが簡便で, 意義のある値をうる方法である.

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