植物学雑誌
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ガラス菌の研究, 第5報. ガラスから分離した2種のアスペルギルス属菌について
大槻 虎男
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1962 年 75 巻 893 号 p. 436-442

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抄録

レンズなどからカビが高張培地上に分離され, 1941年 Aspergillus glaucus var. tonophilu の名で 報告された. これに含まれる菌株には3っの型があった. a) は分生子のみを造り, b) は子のう胞子のみを造り c) は分生子•子のう胞子両者を造った. 戦争中研究室は長野県に疎開し, その間にc菌株を亡失し, b菌株は分生子を造るようになった. これらに関する分類学的記載 (1950) は簡単で不完全であったの で, ここにあらためてaおよびb菌株について詳しく記載し, 種名を発表する.
アスペルギルス属の命名については, Thom と Raper (1945) が A. glaucus を種名からはずして, 群 (group) の名とした. なお完全態の属名としては Aspergillus より Eurotium を適当とするという Benjamin の主張もある. したがって A. glaucus var. tonophilus の学名は改変を必要としていたわけである.
以上の事情を考慮して, a型には Aspergillus vitricolae, b型には Eurotium tonophilum の新種名を 与えた.前者は “A Manual of Aspergilli” によれば, A. glaucus group のseries restrictus には いるもので, 柱状分生子鎖頭を有し, 乾燥ガラスに容易に発育する特性がある. bはA. glaucus group のseries repens にはいることは被子器膜の一重なこと, および子のう胞子の形から明らかである.こ れの有機物要求性はより大ぎく, ガラス上にも指紋など有機物があるときによく発育する. 清浄なガラス 上の発育試験ではaがbに格段に勝る. 光学器械のくもりを起こす主犯はaであると思われる.

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