2022 年 113 巻 1 号 p. 37-41
症例は54歳女性,原疾患不明の慢性腎不全に対して献腎移植を施行され腎機能は安定していた.移植後6年で膀胱刺激症状を契機に膀胱右側の筋層浸潤性膀胱癌が判明し肺転移も伴っていた.StageIV膀胱癌として免疫抑制剤を減量しゲムシタビン・シスプラチン療法を開始したところ,4コース後に転移巣が消失した.新規病変を認めなかったため開放手術にて右腎尿管膀胱全摘術および回腸導管造設を行った.摘出標本で左尿管断端に上皮内癌病変を認めたため,2カ月後に残存した左固有腎尿管に対して鏡視下で腎尿管全摘術を施行したが,悪性所見は認めなかった.Surgical CRとして無治療経過観察としたが,術後半年で多発肺転移が出現した.ゲムシタビン・カルボプラチン療法を導入し,4コース終了までは肺転移がやや縮小したが,5コース終了後は増悪を認めていた.追加治療を希望せず緩和治療へ移行となり膀胱全摘後1年9カ月で癌死した.
腎移植後であっても膀胱全摘および尿路変向手術は可能で,免疫抑制剤の調整により化学療法も完遂できた.腎移植後の進行性膀胱癌にエビデンスのある治療方針はなく,腎機能障害を有し免疫抑制状態であることを認識し,個々の症例で適切な薬物治療や外科的治療の選択をする必要がある.