日本泌尿器科学会雑誌
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113 巻, 1 号
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原著
  • 島袋 智之, 大見 千英高, 馬場 智枝子, 白石 晃司
    2022 年 113 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    (背景) 前立腺癌患者の男性ホルモン除去療法に伴う血清ALPとLDH値の変動様式が生存予後に及ぼす効果はよく分かっていない.

    (対象と方法) 236例を対象とし,両検査値の診断時と加療1年後あるいは去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)診断時との変動様式に基づき,四分位数間範囲内の群をI群,下回る群をL群,上回る群をH群として後方視的に解析.

    (結果) 加療1年後ALPコホートにおいては,年齢を除く全ての評価項目で各群間に有意差を認め,特にL群の75%は骨転移巣を有し,CRPCへの進行例も50%を超え,半数以上が死亡した.加療1年後LDHコホートにおいては,全身状態と臨床転移分類において各群間に有意差を認めた.CRPC/ALPコホートにおいては,PSA値と臨床転移分類において各群で有意差を認め,L群では全症例とも有転移例であった.また,CRPC/LDHコホートにおいては,L群で全身状態不良症例の割合が高く,time to CRPCも短かった.加療1年後ALPコホートにおいて,I群に対するL群の死亡ハザード比(HR)は3.77,H群は2.27で両者とも有意であった.CRPC/LDHコホートにおいてI群に対するL群のHRは1.99であった.

    (結論) 血清ALPとLDH値の加療前後の大きな変動は予後不良の兆候であり,特に低下症例はその可能性が強かった.

  • 近藤 義政, 高山 達也
    2022 年 113 巻 1 号 p. 12-15
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    (背景と方法) 筋層非浸潤性膀胱がん治療の一つにBacillus Calmette - Guérin(BCG)膀胱内注入療法がある.注入したBCGは初回排尿時に回収し10%次亜塩素酸ナトリウムまたは家庭用漂白剤を用いて滅菌後廃棄することが一般的であるが,しばしば刺激臭や急な泡立ち,発熱など不快な事象を経験する.33%以上の濃度のイソプロパノール(本検討では日本薬局方70%イソプロパノールを使用した)は,結核菌に対して10%次亜塩素酸ナトリウムまたは家庭用漂白剤と同等の消毒殺菌効力を持つことから,BCG膀胱内注入療法後の尿処理にイソプロパノールも使用可能かどうか検討した.

    (結果) イソプロパノールを使用した場合には,次亜塩素酸ナトリウムで経験する不快な事象は発現せず,また結核菌培養検査でも結核菌の発育を認めなかった.

    (結論) イソプロパノールは,次亜塩素酸ナトリウムと比較してより安全であり,使用を考慮すべきであると考えられた.ただし,火気及び換気には十分な注意が必要である.

  • 新井 欧介, 井内 俊輔, 冨田 諒太郎, 松村 正文, 橋根 勝義
    2022 年 113 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    (目的)

    根治的前立腺全摘除術後6カ月目のPSA値を用いることにより,がん地域連携クリティカルパスを使用した術後経過観察の層別化が可能になるか検討した.

    (対象と方法)

    2009年5月から2015年6月までに当院で腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術を施行した352例のうち術前ホルモン治療を施行していない331例を対象に後ろ向きに検討した.術後補助療法は施行せず6カ月目のPSA値が0.01ng/mL未満であった症例をA群(209例),0.01ng/mL以上であった症例をB群(122例)とし,PSA再発に関連する因子を検討した.

    (結果)

    PSA再発はA群21例(10.0%),B群70例(57.4%)と有意にB群が多く(p<0.001),再発までの期間もA群44カ月,B群12.5カ月と有意に短かった(p<0.001).A群内での多変量解析では全摘標本のGleason Grade Group(GGG)および被膜外進展(EPE)が再発の予測因子となった.A群において全摘標本でGGG1の症例は被膜外進展が無く,再発も認めなかった(30例).全摘標本でGGG2かつ被膜外進展無しの症例は90例あり,再発は4例(4.4%)と少なかった.

    (結論)

    根治的前立腺全摘除術後6カ月目のPSA値(カットオフ0.01ng/mL)と術後病理結果(GGGとEPE)の組み合わせにより,術後経過観察の個別化が出来る可能性が示唆された.

  • 井之口 舜亮, 松井 太, 松山 聡子, 近藤 楓基, 末永 信太, 矢澤 浩治, 松本 富美
    2022 年 113 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    (目的) 本研究の目的は,当センターで経験した小児急性精巣上体炎の臨床像を調査し,小児急性精巣上体炎の病因と治療を検討することである.

    (対象と方法) 2017年1月から2021年1月に当センターを受診した小児急性陰囊症84例中,急性精巣上体炎と診断した47例の臨床的特徴を後方視的に検討した.腎尿路の基礎疾患検索目的に,全例に腎尿路超音波検査を施行した.

    (結果) 平均発症年齢は9歳であり,7~12歳が60%を占めていた.泌尿生殖器異常は13例(28%)に合併した.主な異常は尿道下裂術後8例,膀胱機能障害3例であった.急性精巣上体炎発症を契機として,新たに腎尿路異常を認めた症例はなかった.尿検査を施行した27例中9例(33%)に膿尿を認めた.泌尿生殖器異常あり群9例中膿尿を8例に認めた.一方,泌尿生殖器異常なし群18例中1例にのみ膿尿を認めた(p<0.0001).

    (結語) 小児急性精巣上体炎は急性陰囊症の約半数を占めており,急性陰囊症診療において遭遇する頻度が高い疾患である.小児急性精巣上体炎の約30%に膿尿を認め,泌尿生殖器異常の既往を約30%に認めた.泌尿生殖器異常の既往は,膿尿と関連していた.泌尿生殖器異常の既往のない小児急性精巣上体炎において腎尿路異常を合併する頻度が低いことから,腎尿路超音波検査のルーチンでの施行には疑問がある.

症例報告
  • 今村 哲也, 宮地 志穂里, 堀内 英輔, 池田 健
    2022 年 113 巻 1 号 p. 28-32
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    68歳,女性.肉眼的血尿が出現し,当科を受診した.膀胱鏡にて膀胱三角部から左側壁にかけて左尿管口を巻き込む粘膜下腫瘍を認めた.CTでは左尿管口周囲に3.5×2.5cm大の充実性腫瘤を認め,左水腎,水尿管を認めた.またMRIで腫瘤はT2強調で低信号,拡散強調画像で高信号を示したが壁外浸潤は認めなかった.組織診断目的に経尿道的膀胱腫瘍切除を施行し,可能な限り腫瘍を切除した.病理組織結果はびまん性にN/C比の高い細胞が出現しB細胞性のリンパ腫が考えられた.免疫染色を併せて検討をした結果MALTリンパ腫と診断した.PET-CTを施行し,他部位に画像上,リンパ腫の転移がないため,膀胱原発悪性リンパ腫の病期IE(Ann Arbor分類)と診断した.骨盤部に総線量30Gyの放射線治療を施行した後,リツキシマブ(375mg/m2)の投与を6コース施行して治療終了とした.現在治療後48カ月を経過しているが明らかな再発や転移は認めていない.

  • 米田 達明, 袴田 康宏, 神田 裕佳, 杉浦 皓太, 今井 伸
    2022 年 113 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    カバジタキセル開始時の年齢が74歳の転移を有する去勢抵抗性前立腺癌の患者について報告する.2年間ドセタキセルの投与を行うも手指の神経障害が強くみられ,カバジタキセルに変更した.1コース目の7日後に発熱性好中球減少症を来したが,すぐに改善した.その後は相対容量強度を考慮しながらカバジタキセルの投与量や投与間隔を調整し,重篤な有害事象もなく合計51コース施行した.カバジタキセルはドセタキセル投与後のセカンドラインとして非常に有効で,ドセタキセルよりも有害事象は少なく,外来での治療に適していると思われる.本症例のように50コース以上,約3年半という長期投与が可能な症例もあり,有害事象を恐れずに相対容量強度の概念を遵守することが重要と考えられた.

  • 田邉 起, 大澤 崇宏, 堀田 記世彦, 岩見 大基, 菊地 央, 松本 隆児, 安部 崇重, 篠原 信雄
    2022 年 113 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    症例は54歳女性,原疾患不明の慢性腎不全に対して献腎移植を施行され腎機能は安定していた.移植後6年で膀胱刺激症状を契機に膀胱右側の筋層浸潤性膀胱癌が判明し肺転移も伴っていた.StageIV膀胱癌として免疫抑制剤を減量しゲムシタビン・シスプラチン療法を開始したところ,4コース後に転移巣が消失した.新規病変を認めなかったため開放手術にて右腎尿管膀胱全摘術および回腸導管造設を行った.摘出標本で左尿管断端に上皮内癌病変を認めたため,2カ月後に残存した左固有腎尿管に対して鏡視下で腎尿管全摘術を施行したが,悪性所見は認めなかった.Surgical CRとして無治療経過観察としたが,術後半年で多発肺転移が出現した.ゲムシタビン・カルボプラチン療法を導入し,4コース終了までは肺転移がやや縮小したが,5コース終了後は増悪を認めていた.追加治療を希望せず緩和治療へ移行となり膀胱全摘後1年9カ月で癌死した.

    腎移植後であっても膀胱全摘および尿路変向手術は可能で,免疫抑制剤の調整により化学療法も完遂できた.腎移植後の進行性膀胱癌にエビデンスのある治療方針はなく,腎機能障害を有し免疫抑制状態であることを認識し,個々の症例で適切な薬物治療や外科的治療の選択をする必要がある.

  • ⼟肥 光希, 奥⽊ 宏延, 岡崎 浩, 伊古⽥ 勇⼈, 中村 敏之
    2022 年 113 巻 1 号 p. 42-45
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    症例は75歳男性.高血圧,慢性腎不全(CKDステージ5)のため近医通院中.腹部超音波検査で左腎腫瘍を指摘され,当科紹介受診.単純CTで,左腎上極に約50mmの複雑性腎囊胞を認めた.単純MRIでは多数の隔壁を伴う囊胞性腫瘤を認めた.隔壁の⼀部に肥厚が疑われ,Bosniak IIFまたはIIIに相当した.腎機能障害があり,腫瘍に対する定期画像検査を⾏いつつ手術時期を検討する⽅針とした.翌年の単純CTで,既知の腫瘍の外側に,⻑径20mmの腎腫瘍を新たに認めた.新規の腫瘍はその後増⼤傾向にあった.⾎液透析導⼊後,腹腔鏡下根治的左腎摘出術を施⾏した.病理所⾒は,上極内側の腫瘍は低悪性度多房囊胞性腎腫瘍であり,外側の腫瘍はフマル酸ヒドラターゼ遺伝⼦⽋損腎細胞癌であった.同側腎に両者の同時発⽣を認める症例はまれであり,⽂献的考察を加えて報告する.

  • 田邉 健児, 矢嶋 習吾, 松本 峻弥, 大久保 尚弥, 中西 泰一, 増田 均
    2022 年 113 巻 1 号 p. 46-49
    発行日: 2022/01/20
    公開日: 2023/01/20
    ジャーナル フリー

    人工尿道括約筋(AUS)植込後の患者の30~50%が,腹圧性尿失禁(SUI)の再発や感染のために再手術を必要とすることが報告されている.最近の報告ではSUIの再発の最も多い原因はAUSの機械的故障であることが指摘されている.今回,AUSの機械的故障に対して尿道の操作をせずにAUS交換術を施行した症例を報告する.症例は63歳の男性.ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術後の重症SUIに対してAUS植込術を行った.術中,カフを膨らませAUSが正常に作動することを直視下に確認したが,術後7週間目にAUSを作動させてもSUIは改善しなかった.尿道鏡で尿道が括約されていないことが確認され,CTでチューブの連続性の欠如及びバルーンの縮小がみられた.再手術の際,チューブは接続部で外れていることが判明した.圧力媒体の補充と尿道鏡により,圧力調整バルーンが漏れていないこととカフが尿道を閉塞させることを確認した.その後,コントロールポンプの交換とチューブの再接続のみでAUS交換術は完了した.術後直ちにAUSを作動させ,SUIの改善を確認した.3カ月後には患者は良好な禁制状態を享受している.AUS交換術時に機械の故障箇所が特定できれば,尿道の操作を加えずに部分的な交換のみで手術が完了し,尿道損傷のリスクを回避することができる.

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