日本泌尿器科学会雑誌
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腎細胞癌の静脈内進展
予後因子としての肉眼的腫瘍血栓
寿美 周平立花 裕一東 四雄福井 巌高木 健太郎大島 博幸
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1991 年 82 巻 5 号 p. 804-809

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抄録

1972年から1988年までの17年間に加療した腎細胞癌のうち肉眼的腫瘍血栓の進展度を確認し得た114例を対象として血栓の進展度別の分析を行い, 予後因子としての肉眼的腫瘍血栓の意義を検討した. 下大静脈に腫瘍血栓を認めたV2症例は18例 (15.8%), 腎静脈に腫瘍血栓を認めたV1症例は19例 (16.7%), 肉眼的に血栓を認めないV0症例は77例(67.5%)であった. V1, V2を合わせたV+群ではV0群に比して, 静脈内進展を除外して評価した局所進展度がT3以上である頻度, 遠隔転移陽性率および異型度がG3である頻度が高く, これらはV1, V2の5年実測生存率がV0より不良である背景と考えられた. そこでリンパ節転移・遠隔転移のない (N0M0) 腎摘施行例に限定して比較すると, 3群間で局所進展度に有意差はなく, V2の5年実測生存率 (83.3%) はV0 (87.3%) に近いが, V1ではG3の頻度が高くその5年実測生存率 (54.4%) はV0より低かった. さらにG3症例を除外し, 背景因子を一致させるとV1の生存率はV0のそれに等しくなり, 静脈内進展度別予後の間に差は認められなくなった. 以上より腎細胞癌における肉眼的腫瘍血栓の存在そのものは一次的な予後規定因子ではなく, 組織学的異型度と腫瘍浸潤が高度な腫瘍に起こり易い二次的な現象であり, それ自体を予後不良化因子として局所進展度の評価因子の一つとすることに疑義があることが示唆された.

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