日本泌尿器科学会雑誌
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出生前および新生児期に診断された一側性多嚢腎症例の臨床経過
松本 富美島田 憲次細川 尚三上仁 数義
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キーワード: 多嚢腎, 新生児, 保存的治療
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2001 年 92 巻 6 号 p. 615-618

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抄録

(目的) 当センターで経験した一側性多嚢腎症例の臨床経過をもとに最近の治療方針につき検討を行った.
(対象と方法) 対象は, 1991年8月から1999年2月の7年7ヵ月間に新生児期までに超音波検査にて一側性の多嚢腎を指摘された48例 (男児30例, 女児18例) で, 全例に核医学検査が施行され, 患側にRIの集積が無いことが確認された. 観察期間は15ヵ月から8年10ヵ月 (平均4年6ヵ月).
(結果) 出生前に診断されたのは48例中45例 (93.8%) で, 胎児期および周産期に多嚢腎による隣接臓器圧迫のため mass reduction を必要とした症例はなかった. 7例 (14.6%) に軽度の膀胱尿管逆流: VUR (同側5例, 反対側2例) がみられた. 患側に尿管瘤または異所開口尿管を伴う2例に腎尿管摘除術が行われた. 多嚢腎が増大傾向を示す症例はなかったが, 2例の男児は5歳を過ぎても縮小傾向がみられず, 親の希望にて腎摘除術を行った. 反対側の尿路異常に対して, 3例に腎盂形成術, 2例に尿管尿管吻合術が施行された. 反対側が低異形成腎であった1例に腎不全を認めている. 高血圧症状, 悪性新生物を認めた症例はなかった.
(結論) 以上の所見より, 一側の多嚢腎を有する新生児は多嚢腎自体が手術の適応となることは稀で, 反対側の腎・尿路に重篤な異常がなければ保存的治療が可能である. 自験例では認められなかったが, 高血圧や悪性新生物の発生の危険から長期の follow-up が望ましいといわれており, 家族の中には繰り返す外来通院・検査に大きなストレスを抱く者もある. そのため手術 (多嚢腎摘除術) は親の要求があれば治療の選択肢の一つと考え得る.

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