抄録
褥瘡患者において創傷感染は生命にかかわる問題であり、創部や創周囲皮膚の細菌負荷を軽減するケアを実施しているにもかかわらず、いまだに制御することができていない。褥瘡患者の多くは寝たきりであることから、創部上
の細菌の供給源として寝床環境に着目した。しかし、寝床環境の細菌叢の形成過程はこれまでに明らかになっていない。そこで本研究では、感染褥瘡患者、非感染褥瘡患者、非褥瘡保有患者の寝床環境の細菌叢を調査し、多様性と
組成の経時的変化を検討した。細菌叢サンプルは臀部付近のシーツ、創部の中心、創周囲皮膚の3 部位から7 日間連続して採取された。細菌叢は16S ribosomal RNA 遺伝子解析を用いて特定した。得られたシーケンスをoperational
taxonomic unitsに分類し、細菌叢の多様性を評価した。経時的変化の評価はシーツ交換翌日を起点とした。α多様性の解析では、全患者においてシーツの使用期間に伴う有意な経時的変化は認められなかった。またβ多様性の解析では、非褥瘡保有患者と比較し、褥瘡保有患者のほうが有意に寝床環境の細菌叢の経時的変化が大きかった。これらの結果は、寝床環境が創部細菌叢の供給源となっており、褥瘡の存在が寝床環境の細菌叢に影響を与えている可能性が高いことを示している。創傷感染予防において寝床環境も考慮した介入を実施することが効果的だと考えられる。