2016 年 1 巻 2 号 p. 95-100
筆者らは相間移動溶解剤(Phase Transfer Surfactant,PTS)を用いたショットガンプロテオミクス用の前処理方法を報告してきた.本方法の特徴は,酸性条件化でPTSの疎水性度が上昇することを利用して酢酸エチルを用いた液液分配でPTSを試料溶液から除去できる点である.PTSとして陰イオン性界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムおよびラウロイルサルコシン酸ナトリウムを用いており,これら溶解剤は脂溶性の高い膜タンパク質でも細胞質基質タンパク質と同等に定量的に可溶化できるほど溶解能が高い.興味深いことに,これら溶解剤は消化酵素の活性を促進する効果を併せ持っている.PTS法はFilter–aided sample preparationや酸分解性界面活性剤であるRapiGestを用いた方法よりも多くのタンパク質を同定できることが示された.PTS法はこれまで多様な試料に適用されており,膜プロテオミクスだけでなく通常のショットガンプロテオミクスにも効果的な前処理方法である.