2024 年 9 巻 1 号 p. 21-32
質量分析分野は現在,次世代シークエンス技術との融合によりマルチオミクス化が進み,ペプチド検索領域が拡大した.質量分析装置自体の性能向上もあり,生データのサイズ量も増大している.そのような巨大データの検索に対応すべく,機械学習を用いた支援アルゴリズムも相乗的に進化を遂げた.また,近年がん免疫研究分野で注目を集めているHLA(Human Leukocyte Antigen,ヒト白血球抗原)複合体の構成分子であるイムノペプチドの分析において,イオンモビリティを応用した分離技術がその存在感を増しており,先に述べた質量分析技術の革新とともに,より精度の高い個別化がん免疫医療の実現のため,臨床検体を用いた解析が急速に進められている.本総説では,イムノペプチドミクスの背景と現状を概説し,なぜイオンモビリティがイムノペプチドミクスにおいて有用であるのか,微分型イオンモビリティの分析系を例に紹介する.また,サンプル調製,質量分析条件,同定後のデータ解釈などについても解説する.