人口学研究
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論文
子供の量と質,女子の労働供給および賃金
大淵 寛
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1988 年 11 巻 p. 5-14

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抄録
先進諸国では近年,出生力,女子の労働供給および賃金の関係に多大の関心が払われてきた,わが国においても,石油危機以降,主婦の職場進出が顕著になる一方,出生力の低落が進んでおり,両者の密接な関係が取り沙汰されている。この問題はかねてから, '出生力の経済学',とりわけ新家政学派が追究してきたものであり,この面における理論的,実証的な研究成果の蓄積はおびただしい量に上る。本論の目的はその成果の上に立って,出生力,子供の質,妻の労働供給および女子賃金の同時決定モデルを構成し,これを戦後日本の時系列データに適用して,モデルの妥当性を検証することにある。はじめに,バッツ=ウォード,ケイン=ドゥーリー,フライシャー=ローズ,コールらによるこの方面での研究業績を展望した後,モデルの構築と使用したデータの説明を行った。モデルは4本の連立方程式からなり, 4個の従属変数と9個の独立変数を含んでいる。計算は1950〜83年に関する全国レベルの年次データについて行われた。モデルの推計結果は十分に満足すべきものであり, 4個の従属変数は相互に矛盾なく説明された。本研究の意義を要約すれば,第1に出生力と女子就業との間には明確な背反関係が存在すること,第2にその背後で賃金変動,したがって経済動向がきわめて大きな役割を果たしていること,そして第3に子供の量と質の関係が補完的ではなく,代替的であることを見出した点にあるといえよう。
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© 1988 日本人口学会
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