2013 年 45 巻 SUPPL.2 号 p. S2_60-S2_63
症例は65歳, 男性. 喫煙を含む多数の冠危険因子があり, 既往歴としては急性肺動脈塞栓症がある. 2011年 7月, 突然の胸痛を自覚し救急搬送され, 各種検査所見からは左冠動脈主幹部が関与した急性冠症候群が疑われた. 来院時はKillip Ⅳ型の急性心不全を併発していた. 緊急冠動脈造影にて左冠動脈主幹部に透亮像を認め, 造影剤の冠動脈内注入によりValsalva洞に移動する所見が得られた. 大動脈造影では上行大動脈から左冠尖, 左主幹部へと連続する巨大な透亮像を認め, 造影CTや経食道エコーから巨大なmassが同部位に形成されているものと考えられた. 緊急冠動脈造影後の血行動態は落ち着いていたが, 左冠動脈主幹部領域の急性冠症候群再燃を恐れて緊急手術を施行する方針とした. 術中所見では上行大動脈, Valsalva洞壁には明らかな形態異常を認めなかったが, 大動脈壁に器質化血栓が付着しており, 2次血栓が形成され冠動脈に塞栓したことで急性冠症候群を発症したと推察された. 入院時はヘモグロビン19.8g/dLで, 喫煙からの 2次性多血症が原因と考えられる稀な急性冠症候群の病態であった.