人口学研究
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論文
国内人口移動と地域経済格差
渡辺 真知子
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1989 年 12 巻 p. 11-24

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抄録

人口移動は様々な要因によって引き起こされる一つの現象であり,経済的要因によってのみ説明されるものではない。しかしながら,マクロ的にみると経済成長が加速化している時期には人口移動の量は拡大しており,経済成長が停滞してくると人口移動も沈静化してきている。このことからいっても人口移動は一つの経済現象である。事実, 1950年代後半から60年代にかけて地方から大都市地域への人口集中によって急速に量的拡大を遂げた国内人口移動は, 70年代に入ると移動量の縮小・移動方向の変化というように趨勢を大きく変えているが,この動向は,日本経済が高度成長期を経て低成長期の現在に至る30数年の間に遂げた産業構造変化と地域構造変化,そしてその結果である各地域の就業構造の変化と密接に関連している。各地域の転入者数の動向と産業別就業者数の動向を対応させると,高度成長期を通じて,人口移動への影響度が高かったのは第二次産業,特に製造業の雇用動向であった。しかしその影響度は低成長に移行してから急速に小さくなり,それに替わって第三次産業の雇用動向が人口移動の動向を大きく支配するようになってきた。従って,これからの人口移動の動向は,第三次産業の地域的展開に大きく依存することになろう。県民一人当り産業別付加価値額の変動係数の推移をみる限り,これまで地域的偏在が比較的小さかった第三次産業の状況は, 1980年代に入ってから若干変化をみせている。しかしながら高度成長期に大規模な人口移動を引き起こした製造業に比べれば,その立地の偏りは小さい。そうだとすれば第三次産業の地域的集中が進んだとしても, 1960年代のような大規模な人口移動が今後起こるとは考え難い。

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© 1989 日本人口学会
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