人口学研究
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論文
大名の乳幼児死亡率1651~1850年 : 大名系譜の分析
村越 一哲
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1999 年 24 巻 p. 15-31

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抄録

江戸時代の都市を対象とした歴史人口学は史料的な制約があって難しい。しかし見方を変えて,町人とは階級の異なる大名を都市住民と考えることにより,彼らの分析が可能になる。武士階級に関しては宗門改帳とはタイプの異なる記録史料である系譜を利用することができるからである。17世紀後半から19世紀前半にいたる200年間の乳幼児死亡率を求めると,それぞれ乳児死亡率は,193.2パーミル,幼児死亡率は229.6パーミルである。両者ともに,18世紀後半から上昇しはじめ19世紀半ばには対象とする期間のなかでもっとも高くなった。その原因は,乳幼児を取り巻く環境の悪化だけでなく,母体のおかれた環境の悪化にある。このような環境の悪化の具体的な内容として,消化器系疾患の広がりが考えられる。18世紀以降,都市化の進展や高い人口の流動性が,まず都市のなかで人口密度の高い町人居住地区に消化器系疾患を広めた。続いてそれが人口密度の低い武士居住地区に広がったために,大名の乳幼児が多く死亡したと考えることができるのである。

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© 1999 日本人口学会
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