本稿では東京都区部を対象とし,1980年代以降における移動数(転出数・転入数)の変化の人口学的要因を明らかにすることを主目的とする。分析にあたっては間接標準化の手法を適用し,移動数の変化を人口構造(男女年齢構造)要因とモビリティ要因に分解することによって,「都心回帰」の人口学的メカニズムの解明を試みた。その結果,得られた主な知見は次の3点にまとめられる。第一に,近年における各区の転入超過数の拡大には,当初は転出モビリティの低下が大きく寄与していたが,次第に転入モビリティ上昇の影響の方が大きくなっていった。第二に,1990年代半ば以降において,すべての都道府県に対して都心部の転入モビリティは上昇し,転出モビリティは低下していた。なかでも関西地方からの転入超過傾向が強まった一方で,1都3県におけるモビリティ変化は比較的小さかった。第三に,人口構造要因は転入数変化・転出数変化の双方に一定の影響を及ぼしており,都心部における将来的な転入超過数増加の抑制要因となることが示唆された。人口移動傾向の変化を正確に把握するためには,本稿で行ったような転入および転出のモビリティ変化を分析することが不可欠となろう。