人口学研究
Online ISSN : 2424-2489
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53 巻
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表紙・目次
論文
  • 金田 陸幸, 栗田 匡相
    原稿種別: 論文
    2017 年 53 巻 p. 1-22
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/20
    ジャーナル フリー
    本稿では,タイにおける個人所得税制改革の是非をシミュレーション分析の結果をもとに検討した。こうした分析手法は財政分析の主たる方法論として多くの学問的蓄積があるが,その多くが,税制改革によって個々の家計がその行動をどのように変化して対応するのか,といった家計行動の変化を考慮していない。本稿では,こうした批判を鑑み,家計行動の変化をモデルに組み込んだマイクロシミュレーションによる分析を行った。こうした分析は先進諸国においても未だ研究蓄積が十分とは言いがたい状況であるが,本稿はマイクロシミュレーションの手法をタイのような中進国の分析に適用した先駆的な研究となっている。分析の結果,課税後所得の大きな減少や社会的厚生の急激な悪化もなく,さらに,いくつかの改革では,労働供給を促進する効果があることから,タイ政府が個人所得税改革を行う余地があることを示した。
  • 小池 司朗
    原稿種別: 論文
    2017 年 53 巻 p. 23-45
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/20
    ジャーナル フリー
    本稿では東京都区部を対象とし,1980年代以降における移動数(転出数・転入数)の変化の人口学的要因を明らかにすることを主目的とする。分析にあたっては間接標準化の手法を適用し,移動数の変化を人口構造(男女年齢構造)要因とモビリティ要因に分解することによって,「都心回帰」の人口学的メカニズムの解明を試みた。その結果,得られた主な知見は次の3点にまとめられる。第一に,近年における各区の転入超過数の拡大には,当初は転出モビリティの低下が大きく寄与していたが,次第に転入モビリティ上昇の影響の方が大きくなっていった。第二に,1990年代半ば以降において,すべての都道府県に対して都心部の転入モビリティは上昇し,転出モビリティは低下していた。なかでも関西地方からの転入超過傾向が強まった一方で,1都3県におけるモビリティ変化は比較的小さかった。第三に,人口構造要因は転入数変化・転出数変化の双方に一定の影響を及ぼしており,都心部における将来的な転入超過数増加の抑制要因となることが示唆された。人口移動傾向の変化を正確に把握するためには,本稿で行ったような転入および転出のモビリティ変化を分析することが不可欠となろう。
研究ノート
  • 岩澤 美帆
    原稿種別: 研究ノート
    2017 年 53 巻 p. 47-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/20
    ジャーナル フリー
    婚姻関係にない父母のもとに生まれる婚外子は婚内子に比べ養育に必要な資源や投資が制限されやすく,その実態把握は次世代育成に関わる重要な関心事となる。しかしながら今日の欧米社会と異なり婚外子割合が低い日本では,標本調査による婚外子の捕捉が難しかった。2001年に始まった出生児を対象とした大規模調査である「21世紀出生児縦断調査」では約600ケースの婚外子を含むため,家庭環境や暮らし向き等の定量的な記述が可能である。本稿では米国や日本における婚外出生をめぐる議論や知見を整理した上で,上記調査データ6年分を二次利用し,婚外子の人口学的特徴,両親の属性,経済状況,母親や子供の人間関係,父親の育児参加等,子供の成長に影響を与える諸側面について,父親との同別居による違いおよび婚内子との比較の観点から明らかにした。 日本の婚外子は婚内子に比べて第1子が多いこと,都市部在住が多いこと,低体重児が多いこと,両親に喫煙者が多いこと,経済的に困窮している世帯が多いこと,母親のネットワークが狭いこと,子供の遊び相手の範囲が狭いこと,父親がいない世帯では母方祖父母との同居割合が高まるが,母親とその親との精神的結びつきは希薄である可能性などが明らかになった。0歳時点で父親と同居している割合は,8,9割とされる北欧社会,5割とされる米国に比べても低く,3人に1人以下であった。一方で半数の子供が6歳までに父親あるいは母親の新たなパートナーとの同居経験がある。別居の父親の状況や子供との関係については情報が限られるが,別居の父親からの支援は極めて限定的であることが推測される。質的な調査によってこれまでも日本の婚外子に対する社会的なサポートの必要性が指摘されてきたが,量的調査によっても,日本の婚外子とその家族が経済的に困窮し,家族の結びつきが弱く孤立しやすい状況にあることが確かめられた。一方で,継続的に父親と同居している婚外子や母親の社会経済的地位が高いケースも一定数含まれているほか,同居している婚外子の父親の育児参加は,婚内子の父親と変わらないなど,婚外子をめぐる環境が多様であることも明らかになった。
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