日本家禽学会誌
Print ISSN : 0029-0254
ニホンウズラの喉房形質の頭部骨格異常による遺伝分析
都築 政起若杉 昇
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1990 年 27 巻 6 号 p. 393-397

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抄録

ニホンウズラの喉房(throat tuft, TT)形質は耳口異常および頭部骨格の異常を併発する。これらの異常はいずれも発生初期に生じたhyomandibular furrow (HF)領域の異常に起因し,この発生異常は常染色体性の単一劣性遺伝子hfdTtによって支配されていることが明らかにされた(TSUDZUKI and WAKASUGI, 1989)。しかし,TT系統と正常対照系統間の交配実験において,HF領域の異常出現頻度はF2世代で9%,戻し交配世代で15%であり,期待される異常の出現頻度よりもはるかに小さいものであった.その後,TT系統の孵卵15日胚における頭部骨格異常の出現頻度は88%とHF領域の異常頻度53%に比べ非常に高いことが判明した(TSUDZUKI and WAKASUGI, 1990)。従って,本研究では,孵卵15日胚における頭部骨格異常を指標として遺伝分析を行った。
TT系統と正常対照系統との間で交配を行い,F1, F2,および戻し交配世代の孵卵15日胚の骨をアリザリンレッドSで染色した後,異常の出現頻度を調査した。これらの交配はすべて,以前にHF異常を指標として行った遺伝分析の際の交配と同じものである。下顎骨,舌骨装置,方形頬骨,基底傍蝶形骨,および側頭骨鱗部の5部位における骨異常のうち少なくとも1種類の異常を有する個体を異常と判断した。TT系統と正常対照系統とのF1世代において異常は発見されなかった。F2および戻し交配世代においてはそれぞれ23%および42%の頻度で異常が発見された。この結果は,骨格異常を指標とした場合,hfdTt遺伝子の浸透度は遺伝的背景に影響されることなく88%程度で一定であることを示している。
以上の結果を総合すると,hfdTt遺伝子の浸透度は,骨格(中胚葉由来)異常においては88%と高く,遺伝的背景の影響を受けることが少なかったが,HF領域の異常(上皮の異常として観察される)においては30-55%と低く,遺伝的背景の影響を受けやすい事実から,発生初期において中胚葉由来の組織がhfdTt遺伝子の働きにより最初に障害を受け,この障害が上皮性組織に二次的に障害を誘発すると考えられる。

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