日本予防理学療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-9950
研究論文(原著)
脊椎圧迫骨折患者の体幹筋量は歩行自立可否の予測要因になり得るか
–生体電気インピーダンス法を用いた検討–
池田 尚也 藤井 祐貴石井 咲良
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2025 年 5 巻 1 号 p. 2-9

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Abstract

【目的】脊椎圧迫骨折患者の歩行能力と体幹筋量の関連性を明らかにする。【方法】105名の脊椎圧迫骨折女性患者を対象とした。退院時のFunctional independence measure(FIM)歩行得点を基に歩行自立群と非自立群に分類した。さらに入院時の年齢,骨折数,併存疾患,認知機能,四肢骨格筋指数と体幹筋指数,FIMのデータを抽出した。ロジスティック回帰分析と決定木分析を用いて,退院時の歩行自立可否に関連する要因とカットオフ値を算出した。【結果】ロジスティック回帰分析では併存疾患,認知機能,体幹筋指数,FIM運動得点が選択された。決定木分析では体幹筋指数と認知機能が選択され,入院時に体幹筋指数が5.4kg/m2以上であれば退院時に歩行が自立する確率が高かった。【結論】脊椎圧迫骨折患者の歩行能力には体幹筋量が関連していた。

Translated Abstract

Objective: The purpose of this study was to clarify the relationship between the improvement of walking ability and trunk muscle mass in patients with vertebral compression fractures.

Methods: A total of 105 female patients with vertebral compression fractures were included in the study. Patients were classified into independent and non-independent walking groups based on their functional independence measure (FIM) walking scores at the time of discharge. In addition, data on age at admission, number of fractures, comorbidities, cognitive function, limb skeletal muscle index and trunk muscle index, and FIM were extracted. Logistic regression analysis and decision tree analysis were used to calculate the factors and cutoff values associated with the ability to walk independently at discharge.

Results: In logistic regression analysis, comorbidities, cognitive function, trunk muscle index, and FIM motor scores were selected. The probability of independent walking at discharge was higher if the trunk muscle index at admission was 5.4kg/m2 or higher.

Conclusions: Trunk muscle mass was associated with improved walking ability in patients with vertebral compression fractures.

はじめに

脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症に起因する骨折の中で最も頻度の高い骨折であり,有病率は高齢者や女性で高いことが報告されている1)2)。さらに,強い疼痛や脊柱変形により,日常生活動作に制限を伴うことから3),受傷後のリハビリテーション介入の必要性は高いことが考えられる。

先行研究では加齢に伴う骨格筋の減少はⅡ型線維の多い下肢で起こる傾向があり,Ⅰ型線維の多い体幹筋は加齢に伴う萎縮の影響を受けにくいことが報告されている4)。一方,Magnetic resonance imaging(MRI)を用いた研究では脊椎圧迫骨折患者は脊椎圧迫骨折のない高齢者と比較して,腰部最長筋の筋断面積が有意に低下することが報告されている5)。さらに30歳以上の脊椎・脊髄疾患患者を対象とした研究では体幹筋量の低下が腰痛や脊柱後弯変形,日常生活動作能力(Activities of daily living:ADL)制限,生活の質(Quality of life:QOL)の低下と関連することが報告されている6)。これらの報告は体幹筋量の低下は脊椎圧迫骨折の特異的な症状であり,日常生活動作能力など種々の機能改善には体幹筋量の改善が重要となることが示唆されている。したがって,脊椎圧迫骨折患者では四肢骨格筋量のみならず,体幹筋量の評価も併せて実施していく必要がある。

体幹筋量の評価方法として,これまでにComputed tomography(CT),MRIを用いた筋断面積が報告されているが7)8),CTやMRIは放射性被爆の問題や有資格者の必要性から臨床現場での簡易的な使用は難しいことが考えられる9)。一方,生体電気インピーダンス(Bioelectrical impedance analysis:BIA)法は生体組織の電気抵抗を測定することで体組成を決定する非侵襲的な検査技術であり,ベッド上仰臥位で安全に検査が可能であることから,臨床現場で幅広く用いられている10)11)。また,BIA法で算出される体幹筋量はMRIで算出された傍脊柱筋の横断面積と相関することが報告されており,体幹筋量の評価として妥当性が高いことが示されている12)

脊椎圧迫骨折受傷後は歩行能力が低下し,受傷後の歩行能力は生命予後と関連することが報告されている3)13)。したがって,脊椎圧迫骨折受傷後の歩行能力改善はリハビリテーション介入を進める上で重要な課題になることが考えられる。しかし,これまでに脊椎圧迫骨折患者の歩行能力と関連する要因を調査した研究では,椎体骨折数や認知機能,FIM運動得点などが報告されているものの14)15),我々の渉猟する限り脊椎圧迫骨折患者の歩行能力と体幹筋量の関連性を調査した研究は見当たらない。脊椎圧迫骨折患者における体幹筋量が退院時の歩行自立可否の予測要因であることが明らかにできれば,入院早期からの理学療法介入や歩行予後予測の一助にすることができると考える。そこで本研究では脊椎圧迫骨折患者の入院時の体幹筋量が退院時の歩行自立可否を予測する要因になり得るか,明らかにしたいと考えた。

対象と方法

1.対象者

本研究は後ろ向き研究である。対象は2021年4月1日~2024年7月30日に当院の回復期リハビリテーション病棟に入院した胸腰椎圧迫骨折に対して保存療法が施行された患者を対象とした。本研究の対象者は脊椎圧迫骨折の有病率が高いとされている,65歳以上の女性に限定した2)。なお,本研究は岡山済生会総合病院の倫理審査委員会の審査・承認を得て実施された(ID:240919)。

2.評価

評価項目は入院時の年齢,身長,体重,Body mass index(BMI),受傷から入院までの日数,在院日数,受傷機転,椎体骨折部位,椎体骨折数,椎体骨折の半定量的評価法(Semiquantitative method:SQ法)16),脊椎圧迫骨折の既往歴の有無,チャールソン併存疾患指数(Charlson comorbidity index:CCI)17),認知機能評価(Mini mental state examination japanese:MMSE-J)18),栄養評価(Mini nutritional assessment-short form:MNA-SF)19),骨格筋量,機能的自立度評価(Functional independence measure:FIM)20),リハビリテーション実施時間(リハビリ実施時間)とした。受傷機転は転倒などの症候性と原因が明らかでない無症候性に分類した。椎体骨折部位は単純X線所見より胸椎群,腰椎群,胸腰椎骨折群の3群に分類した。椎体骨折数は単純X線所見より骨折数が1つのものを単椎群,骨折数が2つのもの2椎群,骨折数が3つ以上のものを多椎群の3群に分類した。椎体骨折の評価にはX線所見から椎体圧迫骨折の程度を評価するSQ法を用いた。SQ法では椎体は正常(グレード0),軽度変形(グレード1:椎体高が20~25%減少,椎体面積が10~20%減少),中等度変形(グレード2:椎体高が25~40%減少,椎体面積が20~40%減少),高度変形(グレード3:椎体高および椎体面積が40%減少)に分類される。グレード1以上は椎体骨折とみなされ,椎体骨折の程度を評価するSQ法の妥当性と信頼性は高いことが報告されている21)。リハビリ実施時間は在院中のリハビリ実施時間を在院日数で除した値(分/日)を算出した。骨格筋量はBIA法を用いて,入院後翌日に評価した。四肢骨格筋量は四肢の骨格筋量を合計した値とし,体幹筋量は骨格筋量から四肢の骨格筋量を差し引くことで算出し,四肢骨格筋量と体幹筋量をそれぞれ身長の二乗で除した補正値として,四肢骨格筋指数(Skeletal muscle mass index:SMI)と体幹筋指数(Trunk muscle mass index:TMI)を評価した22)。測定は入院時に理学療法士がInBody S10(InBody,東京,日本)を用いて行い,食後2時間以内は測定を回避し,仰臥位姿勢で15分間の安静を設けた後に実施した。FIMは信頼性,妥当性の高いADL評価であり,運動項目13項目,認知項目5項目の下位項目で構成されており,介助量を7段階の採点基準で評価した。本研究では入退院時におけるFIM歩行項目,入院時のFIM運動得点と認知得点を算出した。本研究における歩行自立可否の判別は退院時におけるFIM歩行得点が6~7点を歩行自立群,1~5点を歩行非自立群に分類した15)。FIM歩行得点の6点は歩行補助具の使用有無に関わらず50m以上の自立歩行が可能であることを示す。

3.リハビリテーションの内容

患者は回復期リハビリテーション病棟で1日90~120分,週5日のリハビリテーションを受けた。リハビリテーションプログラムは関節可動域運動,四肢および体幹の筋力強化運動,起居・歩行動作練習,患者および患者家族へのADL指導などであった。コルセットが完成するまでは廃用の進行を防ぐためベッド上で介入を行い,1週間のベッド上安静が実施された後に離床を開始した。疼痛管理には非ステロイド性抗炎症薬が使用された。

4.統計手法

正規性の確認にはShapiro-Wilk検定を用いた。正規分布の連続変数は平均値±標準偏差,非正規分布のものは中央値(四分位範囲)で表した。カテゴリー変数は数値で表した。歩行自立群と非自立群の間で入院時に得られた,背景情報や評価結果を比較するため,名義尺度はχ²独立性の検定もしくはFisherの正確確率検定にて検討し,連続変数は正規性が認められた場合は対応のないt検定を正規性が認められなかった場合はMann-WhitneyのU検定を実施した。また,退院時の歩行自立可否に影響する要因を同定するために,強制投入法によるロジスティック回帰分析を実施した。ロジスティック回帰分析を行うにあたり,多重共線性への配慮として分散拡大要因(Variance inflation factor:VIF)が5以上の項目は除外した。Model 1では説明変数を退院時の歩行自立可否,調整変数を年齢,BMI,在院日数,リハビリ実施時間とした解析を行い,Model 2では,上記の調整変数に独立変数として先行研究で歩行との関連性が報告されている椎体骨折数,MMSE,FIM運動得点の他,SQ法,脊椎圧迫骨折の既往歴,CCI,MNA-SF,骨格筋量,FIM認知得点を加えた解析を実施した。ロジスティック回帰分析の結果をオッズ比,95%信頼区間で検討した。さらに,Classification and regression trees法による決定木分析により,退院時の歩行自立可否を予測する最適な変数とカットオフ値の組み合わせを算出した。決定木分析のおける独立変数はロジスティック回帰分析で有意な関連を認めた項目とし,過学習が生じないよう,木の剪定後の決定木分析を選択した23)24)。さらに,退院時の歩行自立可否を識別するのに役立つ変数は,ランダムフォレスト法による,ジニ不純度の減少量によって分析した。ジニ不純度の減少量は数値が大きいほど,その変数が歩行自立可否を識別するのに役立つ変数であることを示す。この分析のための独立変数はロジスティック回帰分析で有意な関連を認めた項目とし23),学習データの割合は60%とした。

統計処理にはRコマンダー Version4.4.1(Windows版,freeware)を使用し,有意水準は5%とした。

結果

1.歩行自立群と非自立群の患者の特徴と2群間比較

調査期間で145例の脊椎圧迫骨折患者が対象となった。このうち,データ欠損者3名,身体へ金属挿入がある者15名,ペースメーカーの挿入によりBIA測定が困難な者3名,破裂骨折者1名,受傷前から歩行が自立していない者18名の40名が除外基準の対象となり,合計105名(年齢85.1±7.7歳)が解析に組み入れられた。このうち,歩行自立群は59名(年齢84.3±7.8歳),歩行非自立群は46名(年齢86±7.5歳)であった。退院時における歩行自立群と非自立群の患者の特徴と2群間比較の結果を表1に示す。歩行自立群は非自立群と比較して,有意に体重(p=0.03),BMI(p=0.03),MMSE(p<0.01),MNA-SF(p<0.01),TMI(p<0.01),FIM運動および認知得点(ともにp<0.01)が高値であり,CCI(p=0.02)が低値であった。

表1歩行自立群と歩行非自立群の患者の特徴と2群間比較

項目

全患者

(n=105)

歩行自立群

(n=59)

歩行非自立群

(n=46)

p値
年齢(歳) 85.1±7.7 84.3±7.8 86±7.5

0.2

身長(m) 1.5±0.0 1.5±0.0 1.4±7.3

0.2

体重(kg) 46.6±9.7 48.4±9.8 44.2±9.1

0.03*

BMI(kg/m²) 20.2±4.1 20.8±4.7 19.6±3.3

0.03*

受傷から入院までの日数(日) 2.3±1.3 2.2±1.3 2.4±1.2

0.23

在院日数(日) 54.7±13.5 54.1±13.2 55.6±13.9

0.82

受傷機転(症候性/無症候性) 43/62 22/37 21/25

0.38

骨折部位(胸椎/腰椎/胸腰椎) 16/60/29 10/32/17 6/28/12

0.76

骨折数(単椎/2椎/多椎) 57/36/12 30/22/7 27/14/5

0.71

SQ法(グレード1/2/3) 34/69/2 20/38/1 14/31/1

0.92

脊椎圧迫骨折の既往歴(有/無) 38/67 20/39 18/28

0.57

CCI(点) 1.5【1-2】 1.3【1-2】 1.7【1-2】

0.02*

MMSE(点) 21.2±5.3 24.4±4.9 18.1±5.7

<0.01**

MNA-SF(点) 8.8±1.3 9.1±1.4 8.3±1

<0.01**

SMI(kg/m²) 5±1.1 5.1±1.1 4.8±1

0.06

TMI(kg/m²) 5.7±0.3 6.1±0.3 5.3±0.5

<0.01**

FIM運動得点(点) 37.7±16.4 43.6±16.8 30.1±12.5

<0.01**

FIM認知得点(点) 24.8±7.2 27.8±6.8 20.9±5.9

<0.01**

リハビリ実施時間(分/日) 96.9±6.2 96.5±6.5 97.4±5.7

0.49

BMI; Body mass index, SQ; Semiquantitative, CCI; Charlson comorbidity index, MMSE; Mini mental state examination japanese, MNA-SF; Mini nutritional assessment-short form, SMI; Skeletal muscle mass index, TMI; Trunk muscle mass index, FIM; Functional independence measure

平均値±標準偏差または四分位数【四分位範囲】で示す。*;p<0.05, **;p<0.01

2.退院時の歩行自立可否に影響する要因の検討

退院時の歩行自立可否に影響する要因の検討にあたり,VIFが5以上であったFIM認知得点は独立変数より除外した。ロジスティック回帰分析の結果を表2に示す。退院時の歩行自立可否に影響する要因として入院時のCCI(オッズ比:0.38,95%信頼区間:0.14-0.91,p=0.04),MMSE(オッズ比:1.21,95%信頼区間:1.1-1.35,p<0.01),TMI(オッズ比:4.25,95%信頼区間:1.59-12.5,p<0.01),FIM運動得点(オッズ比:1.07,95%信頼区間:1.02-1.13,p<0.01)が選択された。

表2歩行自立可否に関するロジスティック回帰分析

要因

Model 1

オッズ比

(95% 信頼区間)

p値 VIF

Model 2

オッズ比

(95% 信頼区間)

p値 VIF
年齢 0.97(0.92-1.03) 0.43 1.07 1.06(0.96-1.17) 0.24 1.72
BMI 1.06(0.95-1.18) 0.27 1.13 0.97(0.78-1.17) 0.76 1.79
在院日数 0.99(0.96-1.02) 0.84 1.07 1.02(0.98-1.08) 0.22 1.29
リハビリ実施時間 0.97(0.91-1.03) 0.43 1.01 0.97(0.87-1.07) 0.6 1.32
骨折数 1.21(0.52-2.87) 0.64 1.26
SQ法 1.38(0.28-7.01) 0.69 1.44
脊椎圧迫骨折の既往歴 0.36(0.08-1.35) 0.14 1.57
CCI 0.38(0.14-0.91) 0.04* 1.57
MMSE 1.21(1.1-1.35) <0.01* 1.35
MNA-SF 1.31(0.77-2.28) 0.25 1.39
SMI 0.8(0.35-1.75) 0.57 2.44
TMI  4.25(1.59-12.5) <0.01* 2.92
FIM運動得点 1.07(1.02-1.13) <0.01* 1.33

BMI; Body mass index, SQ; Semiquantitative, CCI; Charlson comorbidity index, MMSE; Mini mental state examination japanese, MNA-SF; Mini nutritional assessment-short form, SMI; Skeletal muscle mass index, TMI; Trunk muscle mass index, FIM; Functional independence measure, VIF; Variance inflation factor

Model 1:Model χ²検定 p<0.05, Hosmer-Lemeshow test p=0.08, 的中精度=64.9%

Model 2:Model χ²検定 p<0.05, Hosmer-Lemeshow test p=0.46, 的中精度=80.9%, *;p<0.05, **;p<0.01

3.脊椎圧迫骨折患者の歩行自立可否を予測する決定木分析

決定木分析の結果を図1に示す。歩行自立可否に影響する有意な独立変数としてTMIとMMSEが選択された。本モデルでは第1層でTMIが5.4kg/m2以上であれば100%の確率で歩行が自立し,第1層でTMIが5.4kg/m2未満で第2層のMMSEが19点以上の場合,66.7%の確率で歩行が自立し,33.3%の確率で歩行が自立しないという結果であった。また,TMIが5.4kg/m2未満かつMMSEが19点未満の場合,19%の確率で歩行が自立し,81%の確率で歩行が自立しないという結果であった。正分類率は80.9%であった。

図1 歩行自立可否の決定木分析

正分類率=80.9%

MMSE; Mini mental state examination, TMI; Trunk muscle mass index

4.脊椎圧迫骨折患者の歩行自立可否を予測するランダムフォレスト分析

ランダムフォレスト分析の結果を図2に示す。ジニ不純度の減少量はTMIが10.6,MMSEが9.3,FIM運動得点が8.6,CCIが2.1であり,TMIが退院時の歩行自立可否に最も影響力のある指標であった。的中精度は82.7%であった。

図2 歩行自立可否に関するランダムフォレスト分析

的中精度=82.7%

TMI; Trunk muscle mass index, MMSE; Mini mental state examination, FIM; Functional independence measure, CCI; Charlson comorbidity index

考察

本研究は保存療法を受けた脊椎圧迫骨折患者における入院時の体幹筋量が退院時の歩行自立可否の予測要因になり得るかを調査した初めての研究である。本研究の結果,脊椎圧迫骨折患者における入院時の体幹筋量は退院時の歩行自立可否を予測する要因となることが示唆された。本研究の結果から,入院時のTMIが5.4kg/m2以上の場合,高い確率で退院時に歩行が自立し,TMIが5.4kg/m2未満かつMMSEが19点未満の場合,退院時に歩行が自立しない確率が高くなることが明らかになった。退院時の歩行自立可否判別のカットオフ値を明らかにしたことで,入院後早期から歩行自立可否の予測が可能となる。それにより,予測された帰結を見越した理学療法の提案や移動手段の選択などの一助にすることができると考える。

1.TMIと歩行能力の関連性

今回,脊椎圧迫骨折患者の退院時の歩行自立可否に関連する要因として,TMIが抽出された。体幹筋活動や体幹による頭部動揺の制御は歩行安定性に寄与するとされている25)26)。また,高齢者の体幹筋機能と歩行能力は関連することが明らかにされており27),脊椎・脊髄疾患患者を対象とした研究ではSMIでなく,体幹筋量の低下がADL制限と関連することが報告されている6)。これらの報告を踏まえると,高齢患者の多い,脊椎圧迫骨折患者を対象とした本研究の結果は妥当な結果であることが考えられ,脊椎圧迫骨折患者における歩行自立可否の予後予測には,体幹筋量が有用な指標となることが示唆された。

また,今回の決定木分析では,脊椎圧迫骨折患者の歩行自立可否を判別する決定木分析の第1層でTMIが選択され,カットオフ値は5.4kg/m2であった。我々の渉猟する限り,脊椎圧迫骨折患者の歩行能力とTMIの関連性およびTMIのカットオフ値を調査した研究は見当たらない。大腿骨近位部骨折患者を対象とした研究では,歩行自立可否を判別するTMIのカットオフ値は5.7kg/m2となることが報告されており28),本研究のカットオフ値は先行研究より低値であった。この理由として,脊椎圧迫骨折患者では脊椎圧迫骨折のない高齢者と比べ,腰部最長筋の筋断面積が低下していることから5),体幹筋量の低下は脊椎圧迫骨折に特異的な症状であることが考えられ,大腿骨近位部骨折患者と比較して体幹筋量が低値となったことが考えられる。

本研究の結果から,BIA法を用いた体幹筋量の評価が脊椎圧迫骨折患者の歩行自立可否の予後予測に有用となる可能性が示唆された。本研究の体幹筋量の評価は先行研究で報告されているCTやMRIでなく,BIA法を用いた。CTやMRIによる体幹筋量の評価はコスト,放射線被爆の問題や有資格者の必要性から臨床現場における,日常的な評価は難しいことが考えられる。一方,BIA法はベッド上で非侵襲的かつ簡便に評価が可能である。さらに,BIA法で算出された体幹筋量はMRIを用いて算出された脊柱筋の横断面積と相関をすることから,体幹筋量の評価としての妥当性も高いことが示されている12)。そのため,本研究で算出されたTMIのカットオフ値は脊椎圧迫骨折患者における歩行自立可否の判別として有用性が高いことが考えられる。

2.認知機能と歩行能力の関連性

本研究における決定木分析では,歩行自立可否判別の第2層としてMMSEが選択された。決定木分析よりTMIが5.4kg/m2未満かつMMSEが19点未満であれば81%の確率で歩行自立の獲得が困難であった。脊椎圧迫骨折患者では高齢者の割合が高く,脊椎圧迫骨折患者の約40%で認知機能が低下していることが報告されている29)。さらに,脊椎圧迫骨折患者における認知機能の低下は歩行能力やADLと関連することが報告されており29),本研究の結果はこれらの先行研究を支持するものであった。本研究の決定木分析によるMMSEのカットオフ値は19点と認知症診断のカットオフ値とされる23点を下回っていた30)。認知症を有する患者では動作再学習の低下や転倒リスクが増大31)することが報告されている。したがって,認知機能が低下した患者では,歩行時における転倒リスクに対して,介助者の見守りを必要とすることから歩行自立度が低下することが考えられる。

3.体幹筋に対する介入

脊椎圧迫骨折患者や腰痛患者を対象とした研究では,運動療法で傍脊柱筋の横断面積,QOLが改善することが報告されている32)。さらに,急性期の脊椎圧迫骨折保存療法患者では早期離床を実施し,体幹筋の筋力低下予防を図ることがQOL向上に重要であるとされている33)。BIA法で測定される体幹筋量はMRIによる傍脊柱筋の横断面積や背筋力と関連することから,入院時に体幹筋量の低下を認める患者に対しては,入院後早期から体幹筋に着目した介入が必要であり,可及的早期から離床を進めていく必要があると考える。

4.本研究の限界と課題

本研究の限界として,第一に本研究は後ろ向き研究であるため,系統誤差が生じている可能性があり,本研究で収集可能な情報は限定される。特に本研究では,受傷後早期の体幹筋量を調査したが,受傷後早期では脊椎圧迫骨折受傷に伴う体幹筋量の低下より,受傷前から体幹筋量の低下が生じていた可能性が高いことが推測される。そのため,体幹筋量への影響が想定される,入院前の身体活動量や動作能力などの調査も行う必要がある。

第二に本研究は単施設研究であり,サンプルサイズが小さく,選択バイアスが生じている可能性が考えられる。特に本研究では脊椎圧迫骨折有病率の高い,女性患者を対象としたが,骨格筋量は性別毎に異なっており34),本研究で算出されたTMIのカットオフ値を脊椎圧迫骨折患者全般に反映することは難しい。今後は多施設共同研究を行うことでサンプルサイズの拡大や性別毎の検証が必要である。

第三に本研究では体組成計を用いて体幹筋量を評価しているが,体組成計では体幹背筋群・腹筋群・側腹筋群など,部位別での筋評価や筋線維間に浸潤している脂肪組織の調査は困難である。そのため,体幹筋評価に関しては体組成計での評価に加えて,体幹筋に対する徒手筋力評価なども併せて実施していく必要があると考える。

結 論

脊椎圧迫骨折患者における入院時の体幹筋量はMMSEとともに退院時の歩行自立可否の判別に有用な予測要因であった。本研究の結果から入院時のTMIが5.4kg/m2以上であれば,退院時に歩行が自立する確率が高くなることが示された。

利益相反

本研究において,開示すべき利益相反はない。

References
 
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https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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