【背景】近年,血液ベースでのサルコペニア評価の拡張性が着目されており,循環バイオマーカーへの関心が高まっている。神経可塑性の調整因子である,脳由来神経栄養因子(BDNF)と地域在住成人のサルコペニアとの関連については,データが乏しいのが現状である。本研究では,成人コホートにおいて血漿BDNF濃度とサルコペニアならびにサルコペニア構成要素との関連を横断的に検討した。【方法】対象は50~82歳の男女246名(平均年齢63.6歳,女性52%)。筋力と骨格筋量指数(SMI)は,握力測定と二重エネルギーX線吸収法(DXA)により評価され,血漿BDNF濃度は,酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて測定された。サルコペニアはEWGSOP2の基準に従って判定された。【結果】サルコペニアを有する者では,血漿BDNF濃度がサルコペニアでない者と比較し47.6%高く,サルコペニアの判定精度としても良好なAUCを示した(AUC 0.702, cut off > 1645pg/ml)。BDNF濃度が1645pg/mlを超える場合,サルコペニアのオッズは2.83倍高くなった(95%CI 1.13-7.11)。共変量として,性別,年齢,BMI,身体活動,喫煙,飲酒,併存疾患,教育歴により調整した。【結論】地域在住の成人男女において,サルコペニアを有する者では血中BDNF濃度が上昇しており,この上昇は神経筋の再構築が亢進していることを反映している可能性がある。本研究結果は神経の健全性と骨格筋の健康との間に複雑な関係が存在することを示唆している。
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