2025 年 5 巻 1 号 p. 20-27
【目的】当院における多疾患併存(multimorbidity)を有する患者の再入院の現状を知り,再入院に関連する因子について明らかにすることを目的とした。【方法】当院に入院した患者の中で退院後,経過の追跡および各種データ抽出が可能であった331人の中からmultimorbidityを有する患者223人を対象とし,診療カルテおよびリハビリテーション実施記録から後方視的に情報収集を行った。評価項目としては基本属性,在宅医療サービス利用の有無,FIM認知合計スコア,FIM運動各項目スコアを対象とした。【結果】Cox比例ハザード回帰分析において運動FIM上半身・下半身更衣の非自立が再入院について調整ハザード比3.04(95%信頼区間:1.57-5.89,p=0.001)と有意な関連を示した。【考察】 運動FIM上半身・下半身更衣の自立が再入院リスクを軽減させる可能性が考えられた。
Objective: This study aimed to examine the current status of readmission among patients with multimorbidity in our hospital and to identify factors associated with readmission.
Methods: Among 331 hospitalized patients whose post-discharge progress could be tracked and for whom relevant data were available,223 patients with multimorbidity were included in the study. Data were retrospectively collected from medical records and rehabilitation logs. The following variables were assessed: basic demographics, presence of home medical care, FIM cognitive total score, and FIM motor score.
Results: Cox proportional hazards regression analysis revealed that non-independence in upper and lower body dressing, as measured by the FIM, was significantly associated with readmission, with an adjusted hazard ratio of 3.04 (95% confidence interval: 1.57-5.89, p=0.001).
Conclusions: It was considered that independence in dressing the upper and lower body, as measured by the motor FIM, could reduce the risk of readmission.
本邦では,高齢者の増加に伴い,多疾患併存(以下:multimorbidity)患者が増加している。multimorbidityとは,一人の患者において複数の慢性疾患が併存し,診療の中心となる疾患の設定が難しい状態である1)。先行研究では65歳以上におけるmultimorbidityの有病率は62.8%という2)報告があり,我が国では高齢者の増加に伴い今後の増加が見込まれている。multimorbidityを構成する併存疾患には,ある一定のパターンがあることが明らかになっており,「心血管/腎/代謝」「神経/精神」「骨/関節/消化器」「呼吸器/皮膚」「悪性/消化器/泌尿器」の5 パターンが特定されている3)。特に心血管/腎臓/代謝パターンでは,過剰なポリファーマシーと強い関連があることが報告されている3)。高齢化と共にmultimorbidity患者が増加することで健康アウトカム,治療負担,医療資源利用への影響が避けられない状況である3)と述べられている。さらに,後期高齢者において,多疾患の併存の度合いが高いほど,年間医療費に加え,年間介護給付費も高額になることが明らかになっている4)。現在,急性期病院では,入院期間を短縮させることが課題となっている。しかしながら,入院患者の高齢化により,退院後再入院するケースが増加している5)。在院日数短縮化の弊害として,退院直後の再入院の増加を懸念する報告もされており6),退院直後の再入院予防策を検討することは重要であると考えられる。当院でも,退院直後の再入院は多々みられ,退院直後の再入院予防策を講じることが課題となっている。しかし,日本におけるmultimorbidity研究の課題として,まだ研究成果が十分に得られておらず,日本人のmultimorbidity患者の特徴は十分にわかっていない3)と言われている。当院としてもmultimorbidity患者が多いと予測される為,multimorbidity患者の再入院に関連する因子を明らかにすることで再入院の予測,およびその予防に関する手がかりを特定できる可能性があり,再入院の削減や医療費削減,今後も行われていく研究の開発に貢献できる可能性があると考えた。その為,本研究ではmultimorbidity患者の再入院の頻度,およびそれに関連する因子について検討することを目的とした。
本研究デザインは,過去起点コホート研究とした。
2.対象者2020年4月から2022年3月の間に当院に入院した患者の中で退院後,経過の追跡および各種データ抽出が可能であった331人の中でmultimorbidity患者233人(男性88人,女性135人,年齢の中央値83歳)を対象とした。multimorbidity患者の選定に関しては先行研究でmultimorbidityパターンを分析した14 文献の検討から,上位20位のリストが提示されており1),定義に含めるべき慢性疾患の参考とした。除外基準は本研究の参加についての拒否の意思表示をした患者,転院,死亡,検査入院の患者,65歳以下の患者,multimorbidity状態に該当しなかった患者とした。
3.調査方法および調査内容 1-基本属性調査方法は,電子カルテを用いて後方視的に情報収集を行った。当院の電子カルテは,医師,看護師,リハビリスタッフ以外にも,医療相談員,ケアマネージャー,訪問サービス提供スタッフも同じカルテに記録する形式となっており,当院の提供する医療・介護サービスについての情報が集約されている。調査項目は,入院時の年齢,性別,初回入院時診断名,multimorbidityの疾患保有個数,その内容,退院日,退院先,退院後サービス利用の内容とした。再入院症例は退院日から再入院日までの期間を追跡期間とした。再入院のない患者は退院日からカルテ最終確認日までの期間を追跡期間とした。年齢は日本老年学会・日本老年医学会の超高齢者の定義に従い90歳以上,89歳以下の2群に分類した。退院後サービスの種類に関してはデータ追跡可能である当院提供サービスを収集した。
2-栄養評価退院時のBody Mass Index(以下:BMI)を収集した。BMIは痩せの定義である18.5kg/m2未満と,18.5kg/m2以上の2群に分類した。
3-ADL評価初回退院時Functional Independence Measure(以下:FIM)運動各項目スコア,FIM認知合計スコアをそれぞれ収集した。
4-再入院率の評価本研究では初回退院後から調査期間に再入院した患者を「再入院群」,退院後,電子カルテの確認が可能で再入院の記録がない患者を「非再入院群」と定義した。再入院の無い患者は電子カルテの最終確認日を打ち切りとし2023年10月31日までを追跡期間とした。退院後1ヶ月,3ヶ月,12ヶ月時点の再入院率についても調査した。
4.統計解析方法再入院群と非再入院群の患者背景の違いについて2群間の比較を行った。年齢,BMIの評価にはMann-WhitneyのU検定を用い,性別,診断名,multimorbidityの疾患保有個数,退院先の評価にはFisherの正確検定を行った。再入院・打ち切りの発生までの期間の分析にはKaplan-Meier法を用い,Logrank検定を用いてmultimorbidityの有無による再入院率の違い,multimorbidityの疾患保有個数による再入院率の違いを比較した。再入院に影響する因子の探索では生存期間,再入院イベントの発生有無を従属変数としたCox比例ハザード回帰分析を行った。独立変数は運動ADLの各項目が再入院に与える影響を評価することを目的とし,既存の報告を参考に,基本属性も含めて設定した。具体的には,性別(男性),年齢(90歳以上;超高齢),BMI(18.5kg/m2未満;痩せ),在宅サービス(訪問診療,訪問看護,訪問リハビリのいずれかの利用あり),FIM認知合計スコア(25点以下;認知機能低下群),FIM運動各項目スコア(5点以下;介助群)とした。単変量解析に加え,多変量解析も行った。多変量解析モデルにおいて,FIM運動スコア13項目(6点以上対5点以下)を含む18項目を変数として投入を試みた。しかし各変数の多重共線性を検討した結果,上半身更衣動作および下半身更衣動作に強い多重共線性を認めた(分散膨張係数:Variance Inflation Factorはそれぞれ19.0,17.8)。両変数の関係を評価したところ,対象者の分布はほぼ一致していたため,上半身更衣動作,下半身更衣動作ともに5点以下という新たな変数を設定した(該当あり:164例,該当なし:37例)。この変数を導入したことで多重共線性も問題のないモデルとなり,この変数を含む17項目で多変量解析を行うこととした。具体的にはp値に基づくステップワイズ法(減少法)を用いて変数選択を行い,最終モデルを導出した。このモデルについてSchoenfeld残差に基づく検定を行い,比例ハザード性の仮定が満たされていることを確認した。
データ解析にはEZR Ver.1.687)を用い,統計学的有意水準はp<0.05とした。
5.倫理的配慮および個人情報の管理患者データは電子カルテより収集した後,個人を特定できる情報を削除し匿名化して管理した。本研究は明石仁十病院倫理委員会の承認(承認番号2024-1-001)を得て実施した。
multimorbidity患者223人を対象とし,再入院群は108人(男性44人,女性64人),非再入院群は115人(男性44人,女性71人)であった。患者背景は,表1に示す。初回入院診断名は,再入院群で整形外科疾患を有意に多く認めた。FIM認知合計スコアは再入院群で有意に低値であった(中央値22対24,p=0.048)。その他の項目では有意差を認めなかった。保有するmultimorbidityの内訳として上位の疾患は,両群ともに高血圧,脳血管疾患,糖尿病,悪性疾患,認知症であった(表2)。また,multimorbidityの疾患保有数に関しては中央値が3個であったが,2群間に有意差を認めなかった。両群併せてmultimorbidityの疾患組み合わせとして183パターンあり,最も多かった組み合わせは高血圧,悪性疾患,脳血管疾患の組み合わせと高血圧,脳血管疾患,前立腺肥大症の組み合わせ,それぞれ4人であった。再入院群では,再入院までの期間は,中央値149日であった。初回退院後1ヶ月,3ヶ月,12ヶ月時点での再入院率は,8.7%,17.3%,45.7%であった。
再入院群 (n=108) |
非再入院群 (n=115) |
p値 | ||
---|---|---|---|---|
年齢(歳) | 84 [79-88] | 83 [78.0-87.5] | 0.457 | |
性別
|
男 | 44 (40.7%) | 44 (38.3%) | 0.784 |
女 | 64 (59.3%) | 71 (61.7%) | ||
BMI(kg/m2) | 20.3 [18.1-22.8] | 21.2 [18.7-24.3] | 0.055 | |
初回入院診断名
|
整形外科疾患 | 16 (14.8%) | 36 (31.3%) | 0.021 |
内部疾患 | 58 (53.7%) | 49 (42.6%) | ||
中枢疾患 | 22 (20.4%) | 23 (20.0%) | ||
悪性疾患 | 12 (11.1%) | 7 (6.1%) | ||
multimorbidityの疾患保有数
|
2個 | 22 (20.4%) | 23 (20.0%) | 0.976 |
3個 | 44 (40.7%) | 47 (40.9%) | ||
4個 | 28 (25.9%) | 28 (24.3%) | ||
5個 | 14 (13.0%) | 17 (14.8%) | ||
FIM運動合計スコア | 46 [25.0-56.0] | 52 [24.0-69.0] | 0.086 | |
FIM認知合計スコア | 22 [16.3-27.0] | 24 [17.0-31.0] | 0.048 | |
退院先
|
自宅 | 69 (63.8%) | 78 (67.8%) | 0.573 |
自宅以外 | 39 (36.2%) | 37 (32.2%) | ||
退院後サービス利用
|
外来診療 | 59 (54.6%) | 76 (66.1%) | 0.100 |
外来リハビリ | 7 (6.5%) | 12 (10.4%) | 0.343 | |
訪問診療 | 38 (35.2%) | 34 (29.6%) | 0.393 | |
訪問リハビリ | 18 (16.7%) | 11 (9.6%) | 0.162 | |
訪問看護 | 32 (29.6%) | 24 (20.9%) | 0.164 | |
デイケア | 13 (12.0%) | 23 (20.0%) | 0.145 | |
再入院までの日数(日) / 追跡期間(日) | 149 [62.8-308.5] | 313 [154.0-505.0] | ||
年齢,BMI,FIM運動合計スコア,FIM認知合計スコア,再入院までの日数,追跡期間の各項目は,中央値 [四分位範囲]で記載した。 略語 BMI; body mass index, FIM; Functional Independence Measure |
再入院群 (n=108 |
非再入院群 (n=115) |
p値 | |
---|---|---|---|
高血圧 | 63 (58.3%) | 77 (67.0%) | 0.213 |
脳血管疾患 | 54 (50.0%) | 42 (36.5%) | 0.044 |
糖尿病 | 39 (36.1%) | 41 (35.7%) | 1 |
悪性疾患 | 30 (27.8%) | 28 (24.3%) | 0.647 |
認知症 | 29 (26.9%) | 28 (24.3%) | 0.759 |
うっ血性心不全 | 26 (24.1%) | 22 (19.1%) | 0.417 |
骨粗鬆症 | 19 (17.6%) | 25 (21.7%) | 0.502 |
脂質異常症 | 17 (15.7%) | 20 (17.4%) | 0.857 |
貧血 | 16 (14.8%) | 13 (11.3%) | 0.551 |
関節疾患 | 14 (13.0%) | 18 (15.7%) | 0.703 |
虚血性心疾患 | 11 (10.2%) | 11 (9.6%) | 1 |
甲状腺疾患 | 11 (10.2%) | 21 (18.3%) | 0.125 |
前立腺肥大 | 9 (8.3%) | 11 (9.6%) | 0.817 |
うつ病 | 6 (5.6%) | 5 (4.3%) | 0.763 |
COPD | 5 (4.6%) | 0 (0%) | 0.025 |
気管支喘息 | 4 (3.7%) | 4 (3.5%) | 1 |
不整脈 | 4 (3.7%) | 10 (8.7%) | 0.169 |
不安障害 | 1 (0.9%) | 5 (4.3%) | 0.214 |
聴力障害 | 0 (0%) | 3 (2.6%) | 0.247 |
肥満 | 0 (0%) | 0 (0%) | NA |
略語 NA; not available |
multimorbidityの有無による再入院率の違いを評価したが,その有無で再入院率に有意差を認めなかった。しかし,退院後1年を経過するとmultimorbidity無し群において再入院率が低下する傾向を認めた(図1(a))。multimorbidityの個数による再入院率の違いを2-5個の各群で比較したが,個数によって再入院率に有意差を認めなかった(図1(b))。
Cox比例ハザード回帰を用いた単変量解析の結果,在宅サービスの利用,FIM認知合計スコア,FIM運動各項目のスコアのいずれもが再入院に関連する因子であった。さらに多変量解析では,性別,年齢,BMI,在宅サービス利用,FIM認知合計スコア,FIM運動各項目スコアの17項目を調整した結果,運動FIMの上半身・下半身更衣の非自立が再入院と有意に関連し,調整ハザード比3.04(95%信頼区間:1.57-5.89,p=0.001)と有意な関連を示した(表3)。運動FIMの上半身・下半身更衣の非自立では,退院後早期から再入院の頻度が多い傾向が認められた(図2)。
単変量解析 | 多変量解析 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(Cox比例ハザード回帰) | (Cox比例ハザード回帰) | |||||||
ハザード比 (95% CI) | p値 | 調整ハザード比 (95% CI) | p値 | |||||
性別 | ||||||||
男性 | 1.35 | (0.92-2.00) | 0.125 | * | ||||
年齢 | ||||||||
90歳以上 | 1.08 | (0.66-1.75) | 0.770 | * | ||||
BMI (kg/m2) | ||||||||
18.5未満 | 1.50 | (0.98-2.29) | 0.062 | * | ||||
在宅サービス | ||||||||
利用あり | 1.64 | (1.12-2.39) | 0.011 | * | ||||
FIM認知合計スコア | ||||||||
25点以下 | 1.71 | (1.11-2.64) | 0.015 | * | ||||
FIM運動各項目スコア | ||||||||
食事5点以下 | 1.99 | (1.06-3.73) | 0.032 | * | ||||
整容5点以下 | 2.5 | (1.26-4.96) | 0.009 | * | ||||
清拭5点以下 | 2.99 | (1.22-7.37) | 0.017 | * | ||||
上半身更衣5点以下 | 3.02 | (1.56-5.83) | 0.001 | |||||
下半身更衣5点以下 | 3.14 | (1.62-6.05) | 0.001 | |||||
トイレ動作5点以下 | 1.89 | (1.25-2.85) | 0.003 | * | ||||
排尿コントロール5点以下 | 1.75 | (1.12-2.73) | 0.014 | * | ||||
排便コントロール5点以下 | 2.02 | (1.22-3.34) | 0.006 | * | ||||
移乗ベッド5点以下 | 1.65 | (1.10-2.49) | 0.016 | * | ||||
移乗トイレ5点以下 | 1.59 | (1.06-2.39) | 0.024 | * | ||||
移乗浴槽5点以下 | 5.34 | (1.31-21.68) | 0.019 | * | ||||
歩行5点以下 | 2.37 | (1.46-3.87) | 0.001 | * | ||||
階段5点以下 | 5.49 | (1.35-22.31) | 0.017 | * | ||||
上半身・下半身更衣ともに5点以下 | 2.83 | (1.51-5.32) | 0.001 | * | 3.04 | (1.57-5.89) | 0.001 | |
多変量解析において,最初に全ての変数を投入し,統計的に重要でない(p値が大きい)変数を一つずつ順番に取り除いていくことで,最終的に意味のある変数だけ(※で示す変数)を残すという方法(p値を用いたステップワイズの変数選択(減少法))を行った。 略語 CI; 信頼区間,BMI; body mass index, FIM; Functional Independence Measure |
本研究はmultimorbidityを有する患者の再入院に影響する因子を検討した。当院入院患者のmultimorbidity有病率は70.4%であり,65歳以上におけるmultimorbidityの有病率は62.8%だった2)という既存の報告と同様の結果となった。本邦では総人口が減少する中で65歳以上の者が増加することにより高齢化率は上昇を続け,2036年に33.3%で3人に1人が65歳以上となると言われている8)。また,世界の高齢化は急速に進展しているがその中でも本邦は最も高い高齢化率である為,今まで以上にmultimorbidity患者が増加することが予想される。高齢者では疾患の経過が医学的要因のみならず,環境要因の影響を強く受けるため,居住環境や生活習慣,経済状態,家族関係,社会関係を把握し,それらを医療に反映することが重要である9-12)と述べられている。また,今後は家族の介護力などの調査をしていくことでより包括的なサポートが行える可能性がある13-16)とも述べられており,個人因子だけでなく,環境因子の調査を進めることでより再入院率を下げることができる可能性があると考える。
2.多併存状態の詳細再入院群,非再入院群のいずれにおいてもmultimorbidityの慢性疾患上位は高血圧,脳血管疾患,糖尿病,悪性疾患,認知症の5つの慢性疾患が上位を占めていた。先行研究では入院に直接関係する因子として男性では腎不全,がん,うつ病,脳卒中,心臓病,女性ではがん,うつ病,脳卒中,心臓病,糖尿病と報告されている17)。先行研究では慢性疾患の併存が2つと1つの組み合わせに心臓病と糖尿病の療法が含まれている場合,3つの病気がある場合,死亡リスクは最も高くなり,平均寿命は糖尿尿,高血圧,心臓病などのいくつかの病気に大きく左右されたと報告されており18),類似する結果となった。multimorbidity パターンは,多くの高齢者に共通する疾患パターンと病院ごとに示される特徴的なパターンがある19)と報告されており,当院では高齢者に共通するパターンは先行研究と類似したが組み合わせとして183パターンがあり,当院が多様な疾患に対応しているという診療機能の特徴が現れた結果と考える。自院の患者の併存疾患や特徴的なパターンを把握することは治療戦略や地域の医療機関とのアライアンス強化,社会資源との連携を考える際の情報として重要19)と考えられており,リハビリテーション科だけでなく,当院全体で本研究の結果を共有していくことが重要であると考える。
3.再入院の因子について今回の研究で,再入院のリスク因子として上半身・下半身更衣5点以下であることが有意に関連することが明らかとなった。先行研究では上衣更衣では認知能力,下衣更衣は運動能力が関連しており20),上衣は下衣に比べて衣類の種類が多く,動作の過程も多いことから,手順獲得の難しさが見られると言われている21)。また,認知機能障害が中等度から重度では,更衣,入浴,トイレ器具の使用,尿失禁,便失禁の順序で障害されると報告されている22)。運動FIMの中で清拭,上衣更衣,下衣更衣,移動,階段の項目において認知FIM低値群が有意に低値を示したと報告23)があり,本研究はFIM認知合計スコアに関して,再入院群が非再入院群を下回る結果となった。また,multimorbidityの内訳として上位の疾患として,再入院群,非再入院群ともに認知症があった。朝,夕の日課として更衣動作を定着させるには記憶が関与すると考え,日常着への更衣は生活リズムが確立できる21)と報告されており,入院中であっても更衣する習慣をつけることで身体機能だけでなく,認知機能低下を予防できる可能性が考えられる。また,上衣に最も強く影響を及ぼす因子は座位であり,重心動揺に耐えうる体幹機能や下肢の支持性が重要となる21)と報告されている。下半身更衣動作に関しても座位における下衣脱着においては座位を保持しながら体幹屈曲および伸展運動が必要である21)と報告されており,上半身・下半身更衣動作において体幹機能の重要性が高いと考える。脳卒中片麻痺患者を対象とした報告14)では下肢荷重力が高いほど,座位保持能力は高い値を示し,健常者を対象とした報告15)でも同様の結果が示された。また,廃用症候群の高齢者を対象にした研究では廃用症候群の筋力は,健康高齢者の筋肉よりも顕著に減少しており,その部位は座位に必要な筋肉すべてに及んでいたと報告されている16)。加齢による筋量の減少に加え,下肢や体幹を自ら動かすことや座位を自ら保持することがない生活状況が強く関与している16)と考えており,これらのことから体幹の機能評価を行うことで更なる因子を探ることができる可能性があると考える。更衣動作は歩行,排泄,入浴といった活動量の高いADL項目と関連しており,更衣動作が早期に自立することで 生活における活動量を向上させることができ,効率的にADL能力の向上を図ることができると示唆されている24)。更衣動作は,介助量が大きく家庭復帰の際に問題となりやすい排泄や入浴動作にも含まれており,その項目の自立を左右することが少なくない13)。更衣動作は介助される側は「してもらう動作」,介助する側は「介助する動作」という特異の意識があり,過介護になる可能性があると報告されており,退院後の活動量低下に繋がっている可能性がある25)。その為,入院時から更衣動作を「してもらう動作」から「できる動作」に変えていくような介入が重要であると考える。
4.再入院までの期間について再入院までの期間に関してはmultimorbidity患者における再入院の先行研究による30日以内10.3%〜37.6%,90日以内に16〜58%の範囲,1年以内の再入院は男性で67.3%,女性で67.8%であった26)と報告があった。本研究では90日以内以外は先行研究の数値を下回る結果となった。退院後の在宅サービス利用の有無は,再入院率に有意な関連性を示さなかったが,外来診療,デイケアの利用を単独で見ると,再入院率が有意に低い結果となった(data not shown)。これらのことから退院早期から特に3ヶ月間の外来診察やデイケアで慢性疾患に対してフォローアップしていくことで慢性疾患の改善に努めることが再入院率の改善につながるのではないかと考えている。先行研究では多職種介入によって在宅訪問や電話での病状モニタリングなどを実施し,再入院率を50%減少したとの報告27)もあり,今まで以上に他職種による包括的なアプローチを行なっていくことが重要だと考える。
今回の検討では,multimorbidityを有する223例に加え,同時期の患者集団でmultimorbidityを有さない症例88例と2群間の再入院率を比較したが,両群間で再入院率に有意差を認めなかった。また,multimorbidityの疾患保有数(2,3,4,5個の4群)による再入院率に関しても有意差が見られなかった。先行研究から,85歳以上ではmultimorbidityの有病率が90%に達する可能性がある27)との報告もあり,どの研究でも一貫して高齢者や低所得者はmultimorbidityの影響を受ける可能性が高いと言われている28)。今回の研究では83歳を中央値とする高齢者が多数を占めていた。その為,multimorbidityなし群と判断した患者の中には,未診断のmultimorbidityを有している患者が多く含まれていて,その影響で再入院率に差が生じなかった可能性も考えられる。超高齢化社会となり,multimorbidityが当たり前になった今,multimorbidityの有無や個数だけが再入院に関連する重要な因子ではなく,多変量解析の結果で示すように,上半身・下半身更衣動作などのADL動作にも注目する必要があると考える。
5.本研究と限界と今後の課題本研究にはいくつか限界がある。第一に多変量解析におけるモデル選択の方法である。本研究では,統計的変数選択法であるステップワイズ法を採用したが,この手法には過学習や選択バイアスが生じやすく,モデルの再現性に課題がある点が指摘される。このような背景を踏まえ,本研究では更衣に関連する項目を含む17の候補変数について交差検証を用いてモデルの評価を行った。これら17変数全てを投入したCox比例ハザードモデルでは,再入院に対する予測精度が著しく低いことが示唆され,実用的な予測モデルとしての構築は困難であると判断するに至った。変数の選択法についてLASSO(least absolute shrinkage and selection operator)モデルについても検討したところ,在宅サービス利用あり,上半身・下半身更衣ともに5点以下,トイレ動作5点以下,歩行5点以下,階段5点以下の5変数が候補として選択された。第二に,本研究は単一施設における後ろ向き研究であり,対象患者の年齢分布や施設の医療体制が他施設と異なる可能性があるため,得られた結果の一般化には限界がある点である。第三に後方視的調査であり, 再入院群に関して当院サービス利用が電子カルテ記載から確認できた患者のみを対象とした為,当院サービスを利用していない患者は情報収集ができておらず選択バイアスが生じている可能性が考える点である。
しかし,今回の結果から運動 FIM 上半身・下半身更衣の自立が再入院リスクを軽減させる可能性があると示唆された為,更衣動作が自立して行えない因子に関して,身体機能面,栄養面など多方面から評価していくことが再入院予防に重要だと考える。さらに,欧州でmultimorbidity患者の専門医を対象に行われた研究では多職種連携が患者ケアに関する新たな視点を生む29)と報告がある。その為,同施設の他職種連携だけでなく,多施設共同研究や退院後,電話アンケート調査などを行い他医療機関への再入院の有無を把握することで,今回明確にできなかった点や再入院に至る要因をさらに分析することができると考える。multimorbidity は本邦だけでなく,世界的に懸念が高まっており,今後,研究が進んでいく分野である。本研究結果がmultimorbidity 患者の再入院予防の一助となることを願っている。
本研究はmultimorbidityを有する患者の再入院に関連する因子の探索を目的とした。運動FIM上半身・下半身更衣の非自立が再入院について調整ハザード比3.04(95%信頼区間:1.57-5.89,p=0.001)と有意な関連を示した。
本研究の要旨は第11回日本予防理学療法学会学術大会で口述発表したものである。
開示すべき利益相反はない。