日本予防理学療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-9950
研究論文(原著)
4歳児を対象とした行動面での困難さと運動特性の関係
-発達課題の早期発見と早期支援にむけて-
成田 亜希 大西 満
著者情報
キーワード: 行動特性, 運動特性, 幼児期
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 5 巻 1 号 p. 36-43

詳細
Abstract

【目的】発達障害児の早期発見・早期支援が課題となっている中,幼児期から行動面での困難さを運動特性との関係性から明らかにすることは重要である。本研究では4歳児での関係性を探索する。【方法】4歳児52名を対象に行動特性(SDQ)と運動特性(MKS)の関係を調査した。【結果】SDQとMKSの関係については,男女ともに,多動/不注意の問題が両足連続跳び越しと正の相関を示し,情緒の問題が立ち幅跳びと負の相関を示した。向社会的な行動についても男女ともに,両足連続跳び越しと負の相関を示し,捕球と正の相関を示した。さらに,男児は,25m走と負の相関を示し,立ち幅跳びやボール投げとも正の相関を示した。【考察】保育場面では,活動の中で力強さ,タイミング,すばやさを取り入れることで,行動面での発達課題への対応が期待できる。

Translated Abstract

Objective: The early detection and support of children with developmental disabilities is a critical issue. Understanding the relationship between behavioral difficulties and motor characteristics during early childhood is essential. This study aimed to explore these relationships in four-year-old children.

Methods: Four-year-old children (N = 52)participated in this study. The study examined the relationship between behavioral traits, assessed using the Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ), and motor characteristics, evaluated using the Motor Skills Scale (MKS).

Results: The results revealed significant correlations between boys’ and girls’ SDQ and MKS scores. Hyperactivity/inattention was positively correlated with the ability to jump consecutively with both feet. Emotional problems showed a negative correlation with standing long jump performance. Prosocial behavior was negatively correlated with consecutive jumping and positively correlated with catching skills for both genders. Additionally, among boys, 25-meter sprint performance was negatively correlated with hyperactivity/inattention, whereas standing long jump and ball-throwing skills showed a positive correlation with these SDQ subscales.

Conclusions: In childcare settings, incorporating activities that emphasize strength, timing, and speed may effectively address developmental challenges related to behavioral difficulties. These findings highlight the essential role of structured motor skill activities in fostering early developmental support.

はじめに

発達障害児の早期発見・早期支援が重要視されている。2004年に発達障害者支援法が成立し,2005年に発達障害者支援法施行令及び発達障害者支援法施行規則が策定された。ここには,発達障害の早期発見,早期支援が地方公共団体の責務として明記されている1)。これを踏まえ,早期発見という観点から,各市町村では1歳半児や3歳児の乳幼児健診を実施している。しかしながら,この健診では「言語発達の遅れ」から知的障害を伴う自閉症児の指摘割合は高いものの,学習障害や注意欠如・多動症の指摘率は極めて低いとされている2)。これらは,3歳児健診の後,保育所や幼稚園での集団生活において,急激にさまざまな問題(集団行動が取れない,自分勝手な行動が多い,指示が入りにくい,一人遊びが多いなど)が指摘されるなど,3歳児健診以降から小学校に入学するまでの間の健診や発達相談の必要性を示している3)。また,5歳児健診を実施し,診察項目の組み合わせによっては,注意欠如・多動症や広汎性発達障害などの感度と特異度を向上させる可能性も示唆している3)

次に,早期支援という観点では,自閉症は適切な介入により,神経可塑性が期待される障害へと認識が変化しつつある4)。また,抑うつ,不安障害,素行障害などの二次障害を予防するためにも早期介入が重要であるとされている4)。理想的には,診断がなくとも行動に基づく治療を開始することも望まれている4)。さらに,文部科学省は幼児の運動と対人関係の関連が,コミュニケーション構築に繋がることを示し,主体的に体を動かす遊びを中心とした身体活動を幼児の生活全体の中に確保していくことを大きな課題としている5)。しかし,この運動面と行動面との関連性を明確にしているものは見当たらない。

そこで,本研究では,運動という観点から発達障害児の早期発見・早期支援を検討する。幼児期における行動面での困難さと運動特性の関係を明らかにすることを試みる。その上で,行動面での困難さを抱える児童に対する保育時期の適切な支援方法を検討する。

その際,行動特性については,子どもの強さと困難さアンケートStrengths and Difficulties Questionnaire(以下,SDQ)を用いて分析する。SDQ は,Goodmanによって開発された4歳から18歳までの行動スクリーニングのための質問紙調査法である。精神的健康状態を包括的に把握でき,英国を中心としたヨーロッパ圏で広く使用されている。日本語版SDQにおいても,SDQの原版と因子構造がほぼ同一であり,高い信頼性と妥当性があるとされている6)。SDQは 5つの尺度 (行為,多動/不注意,情緒,仲間関係,向社会性)からなり,行動面での困難さを客観的に捉える指標であるばかりでなく,向社会性においては強みも評価できる点で他の質問紙法とは異なっている。また,SDQは,不注意と多動の検出,社会性の乏しさの検出に優れている7)。そのため,5歳児健診や発達相談において,SDQの活用が支援ニーズをつかむ上で有効性があることも示されている3)。これらの研究結果から,本研究では日本語版SDQ8)を用いて気になる子どもの行動を捉える指標とする。

運動特性については,MKS幼児運動能力検査9)(以下,MKS)を用いて分析する。このMKSは4歳,5歳,6歳の幼児を対象とした全国基準をもつ日本で唯一の運動能力検査であり,文部科学省10)の「体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方」に関する調査研究でも使用されている。測定項目は,25m走,立ち幅跳び,ボール投げなど6種目の下位検査で構成されており,運動特性の基準としては信頼性が高く,これを指標とする。

これらSDQとMKSの関係について,成田・大西(2024)は,5歳児を対象に,男児は,行為,多動/不注意,情緒,仲間関係の問題,向社会的な行動のすべてで運動特性と関係を示し,女児では,仲間関係の問題のみ,運動特性と関係を示したことを報告している11)

以上より,本研究は幼児期における行動面での困難さと運動特性の関係をさらに年少の4歳児にて明らかにし,就学前の保育時の適切な支援方法を探索する。

対象と方法

1.対象

Aこども園に在籍する4歳児(年中児)全52名(男児27名,女児25名)を対象に,行動特性と運動特性を調査した。年齢は,4歳7か月~5歳6か月の児である。対象児は, MKSの運動項目について理解でき,身体的に障害のない児である。実施時期は,202X年である。

2.方法

2-1.行動特性について

SDQ(教師記入用)を用い,保育士または幼稚園教諭(以下,保育者とする)に質問紙調査を実施した。質問内容は,行為の問題,多動/不注意の問題,情緒の問題,仲間関係の問題,向社会的な行動の5つの下位尺度,各5項目の計25項目で構成されている。この質問項目に保育者が回答し,全ての項目について「あてはまる」2点,「まああてはまる」1点,「あてはまらない」0点の3段階評定で行い,得点化した。

SDQの得点算出方法は,向社会的行動を除く4つの下位尺度ごとに得点(各0-10点)を合計する。向社会的行動(0-10点)は得点が高いほど適応が良いことを示し,その他の尺度は得点が高いほど困難さが大きいことを意味する。

2-2.運動特性について

MKSを用い,幼児に運動調査を実施した。保育者が保育の時間を利用し,園庭にて行った。運動項目は,25m走,立ち幅跳び,ボール投げ,両足連続跳び越し,体支持持続時間,捕球の6種目である。各種目の評価,測定方法,運動特性を以下に示す。

1)25m走

走能力,スピード(すばやく移動する能力)を評価する。30mの直走路を設置し,30mのゴールラインまで疾走させる。スタートラインから25m地点を通過するまでの時間(秒)をデジタルストップウォッチで計測する。測定は1回のみである。運動特性としては,すばやさ,力強さをみる。

2)立ち幅跳び

跳躍能力,瞬発力(すばやく動き出す能力)を評価する。両足同時に踏み切り,できるだけ遠くに跳び,踏み切り線と着地点の距離(cm)を計測する。踏み切り線を踏まないことや2重踏み切り,片足踏み切りをしないようにする。測定は2回実施し,最長距離を記録する。運動特性としては,力強さ,タイミングの良さをみる。

3)ボール投げ

投球能力,巧緻性(運動を調整する能力),瞬発力(すばやく動き出す能力)を評価する。両足を投げる手と逆になるように前後に開いて,前足が制限ラインを踏まないように立つ。テニスボールを使用し,利き手の上手投げで可能な限り遠くに投げる。スタートラインからボールが落下した地点までの距離(cm)を計測する。測定は2回実施し,最長距離を記録する。運動特性としては,力強さ,タイミングの良さをみる。

4)両足連続跳び越し

リズムよく1つ1つ正確に早く障害物を跳び越す敏捷性,調整力を評価する。高さ5cm,幅5cm,長さ10cmの障害物を4.5mの間に50cm間隔で10個設置する。10個の障害物に対しスタートから両足を揃えて連続して跳び終わるまでの時間(秒)を計測する。測定は2回実施し,最短時間を記録する。運動特性としては,すばやさ,タイミングの良さをみる。

5)体支持持続時間

筋力(大きな力を出す能力),筋持久力(筋力を持続する能力)を評価する。高さ70cmの台を左右30cm空けて設置し,台と台の間に立たせる。左右の台に手をついて,合図とともに両足を床から離し,両手のみで支える。このとき,肘は伸ばしておく。耐えられなくなり,床に足が着くまでの時間(秒)を計測する。測定は1回のみである。運動特性としては,力強さ,ねばり強さをみる。

6)捕球

物体の移動先を予測してタイミングよくキャッチする,巧緻性,すばやく動作を繰り返す敏捷性など身体操作能力を評価する。直径12cmのゴムボールを使用する。測定者と幼児の間を3m離し,両者中央に設置した高さ170cmのテープ紐を超えるように測定者が下手投げで投げたボールを幼児がキャッチする。10球のうち,何回捕球できたか回数を計測する。運動特性としては,タイミングの良さ,すばやさをみる。

3.分析方法

まず,MKS,身長,体重に関して,男女の2群でt検定を行った。次に,男女別にて,MKSとSDQの関係について,相関分析(Pearsonの積率相関検定)を用いて解析した。統計解析には,SPSS statistics 25.0を使用し,有意水準は5%とした。

本研究では,主に相関係数の大きさ(r 値)と有意水準(p<.05)の両面から慎重に結果を解釈した。

4.倫理的配慮

本研究は,認定こども園園長,保育者,保護者へ研究の概要,対象者の権利,個人情報の保護などについて書面にて説明し,同意を得てから実施した。なお,本調査は所属機関倫理委員会の承認(番号:HCCR-007)を得ている。

結果

1.MKSの男女比較(性差)と身長・体重の男女比較(体格差)

表1は,MKS各項目の男女別の平均値と標準偏差を示したものである。MKSの運動項目のうち,ボール投げのみ男児が女児より有意に高い値を示した。

表1MKSの男女別平均値(M)と標準偏差(SD)

身長については,男児の平均が107.43±3.20(cm),女児の平均が106.32±3.50(cm)であり,t検定の結果,t(50)=1.19,p>.62と,男児と女児で有意差はみられなかった。

体重については,男児の平均が17.75±1.46(kg),女児の平均が17.21±1.82(kg)であり,t検定の結果,t(50)=1.18,p>.43と,男児と女児で有意差はみられなかった。

2.MKSとSDQの関係

表2は男児,表3は女児におけるMKSとSDQとの相関関係(r)を示したものである。相関分析の結果,男女ともに,多動/不注意の問題が両足連続跳び越しと正の相関(男児r=.436,女児r=.487)を示した。情緒の問題が立ち幅跳びと負の相関(男児r=−.467,女児r=−.337)を示した。向社会的な行動についても男女ともに,両足連続跳び越しと負の相関(男児r=−.522,女児r=−.487)を示し,捕球と正の相関(男児r=.607,女児r=.350)を示した。さらに,男児は,25m走と負の相関(r=−.449)を示し,立ち幅跳びやボール投げとも正の相関(r=.434,r=.691)を示した。

表2男児におけるMKSとSDQとの相関関係(r)

表3女児におけるMKSとSDQとの相関関係(r)

考察

本研究は,幼児期4歳児における行動面での困難さと運動特性の関係を明らかにし,就学前の保育時の適切な支援方法を探索することであった。行動面での困難さと運動特性の関係において,一定の結果が得られたので以下に考察する。また,本研究の対象児の月齢は,4歳7か月~5歳6か月と約 11 か月の幅がある。幼児期は月齢の差による発達段階の個人差が大きいため,結果の解釈にあたっては,この月齢差が運動特性や行動特性に及ぼす影響も考慮した。

1.MKSの男女差と体格の男女差について

ボール投げのみ,男児が女児より有意に高い値を示した。男女において,身長や体重の体格差は認められなかったが,ボール投げのような力強さ,タイミングの良さに違いがみられた。これは,女児が室内遊びを好み身体を動かす遊びが少ないことや12),男児の身体活動欲求が高いことが影響していると考えられる13)。そこで,以下の行動面での困難さと運動特性の関係を確認する際には,男女別で行うこととした。

2.行動面での困難さと運動特性の関係

行動面での困難さと運動特性の関係からも,男女に差が生じた。男女ともに,多動/不注意の問題が両足連続跳び越しと正の相関を示し,情緒の問題が立ち幅跳びと負の相関を示した。しかし,女児の情緒の問題と立ち幅跳びの関係については弱い相関であった。向社会的な行動についても男女ともに,両足連続跳び越しと負の相関を示し,捕球と正の相関を示した。しかし,女児の向社会な行動と捕球の関係については弱い相関であった。さらに,男児は,25m走と負の相関を示し,立ち幅跳びやボール投げとも正の相関を示した。行動面での困難さごとに,図1の運動関連図から考察する。この運動関連図は,藪中良彦 氏が開発した「協調運動障害に介入するために必要な要素関連図」14)に,MKSの運動項目と文部科学省が示す発達年齢15)を加えたものである。

図1 運動関連図

まずは,多動/不注意の問題が両足連続跳び越しと正の相関がみられたことについて検討する。両足連続跳び越しは,動きの範囲,スピード,タイミング,リズム,手順など運動企画が複雑である。また,運動遂行のための身体の基礎要素である感覚,分離・協調運動,筋力・バランス反応,さらには眼球運動や視知覚認知なども要求される。多動/不注意の問題とは,「落ち着きがなく,長い間じっとしていられない」「いつもそわそわしたり,もじもじしている」「すぐに気が散りやすく,注意を集中できない」「ものごとを最後までやりとげる集中力がない」「よく考えてから行動することができない」であり8),過活動や集中困難が含まれる。多動/不注意は注意欠如・多動症の主症状の一つでもある。注意欠如・多動症の運動能力の特徴として,小林16)は,バランスの悪さや不器用さを認め,特に目と上肢,目と下肢を使用した視知覚運動は健常の平均以下であることを報告している。本研究においても,多動/不注意の問題が,協調的な粗大運動である両足連続跳び越しと正の相関がみられることには,先行研究と同様,運動遂行のための身体の基礎要素,周りの状況把握,運動企画の困難さが,自分自身の身体を上手くコントロールできず,行動にまとまりがなくなることが示唆された。このような児には,運動発達の段階に沿って,身体の基礎要素,周りの状況把握,運動企画へと1つずつ運動関連要素を遊びの中で獲得し,積み上げていくことが重要である。その際,楽しければ,子どもはよく話を聞き,よく見てまねようとする。これが集中力や持続力にも繋がるのである17)

次に,情緒の問題が立ち幅跳びと負の相関がみられたことについて検討する。立ち幅跳びは,力加減,タイミング,手順など運動企画が複雑である。また,身体の基礎要素や粗大運動,眼球運動・視知覚認知なども要求される。情緒の問題とは,「頭がいたい,お腹がいたい,気持ちが悪いなどと,よくうったえる」「心配ごとが多く,いつも不安なようだ」「おちこんでしずんでいたり,涙ぐんでいたりすることがよくある」「目新しい場面に直面すると不安ですがりついたり,すぐに自信をなくす」「こわがりで,すぐにおびえたりする」である8)。他のSDQ質問項目と違い,自分自身の感情や気分と強く関わりをもち表現されるものである。先行研究では,運動能力が優れているものは,情緒面が安定していることも示されている18)。立ち幅跳びなどの跳躍系能力は,力強さ,タイミングの良さが重要であり9),情緒に問題がある子どもは,勢いよく活動を開始することの難しさも関連すると考えられる。4歳前後では,自分の得手不得手がわかってくると,他の児よりも劣っている部分が見えたり,勝負に負けて「つらい」「悔しい」という気持ちを経験する17)。この時期には,人から認められること,努力に対する評価が自己安定感を育てると言われている。友達との運動遊びの中で,大人による「失敗しても大丈夫」という挑戦する気持ちを起こす関わりが重要である17)

続いて,向社会的な行動が,両足連続跳び越しと負の相関がみられ,捕球と正の相関がみられたことについて検討する。また,男児においてのみ,25m走と負の相関,ボール投げや立ち幅跳びとも正の相関がみられたことについて検討する。捕球は,物体の移動先を予測し,タイミングよく,かつボールの操作を行う力加減や巧緻性,さらに,すばやく動作を繰り返す敏捷性や,次の動作への切り替え,眼球運動・視知覚認知,身体の基本要素など,高度な身体操作能力が問われ9),高度な運動企画が必要となる。向社会的な行動とは,「他人の気持ちをよく気づかう」「他の子どもたちと,よく分け合う」「誰かが心を痛めていたり,落ち込んでいたり,嫌な思いをしているときなど,すすんで助ける」「年下の子どもたちに対してやさしい」「自分からすすんでよく他人を手伝う」である8)。捕球や両足連続跳び越しの2つの種目は,対人・対物に合わせた動きとなる。4歳台では,少人数から集団での遊びも多くなり,ルールの理解やルールを守る力が必要になる。集団遊びの中では,応援したり,負けた子どもを慰めたりすることもできるようになる。このような行動が人との関係を作り,深めていく17)。この行動が向社会的な行動であり,集団遊びを通して培われるものである。

男児においてのみ相関関係がみられた25m走,ボール投げ,立ち幅跳びについては,捕球や両足連続跳び越しの運動特性に加えて,力強さが関連する。力強さは,身体の基本要素である体の安定に必要な筋力に相当する。女児が室内遊びを好み身体を動かす遊びが少ない傾向にあることや12),男児の運動がしたいという意識が高く運動遊びを好むこと13)が粗大運動経験,筋力差につながり,男児の中でその粗大運動・集団遊びの経験差が向社会的な行動と関連すると考えられる。これについては,発達障害の発生頻度として男児に多いこと19)とも関連し,検出力が高い可能性も示唆された。このことから,4歳男児では25m走,ボール投げ,立ち幅跳びによって,発達障害児の早期発見につなげる可能性が示唆される。

3.発達年齢による検討

成田・大西(2024)の5歳児の研究では,男児が行為の問題,多動/不注意の問題,情緒の問題,仲間関係の問題,向社会的な行動のすべてにおいて,運動特性と相関関係を示し,一方,女児では仲間関係の問題のみ,運動特性と相関関係を示した11)。しかし,今回の4歳児を対象とした研究では,男女ともに,相関の強さに差は見られるものの,多動/不注意の問題,情緒の問題,向社会的な行動で運動特性と関係性がみられ,また,男児においてのみ25m走,ボール投げ,立ち幅跳びとも相関関係がみられた。さらに,男女ともに,行為,仲間関係の問題では,運動特性とは関係性がみられなかった。行為の問題とは,「カッとなったり,癇癪を起こす」「素直に大人の言うことが聞けない」「よく他の子どもと喧嘩をしたり,いじめたりする」「よく嘘をついたり,ごまかす」「物を盗む」であり8),自己中心的な行動である。仲間関係の問題とは,「一人でいるのが好きで,一人で遊ぶことが多い」「仲の良い友だちが一人もいない」「他の子どもたちから,好かれていないようだ」「他の子どもから,いじめの対象にされたり,からかわれたりする」「他の子どもより,大人といる方がうまくいくようだ」である8)。これら,他者を意識することや,我慢ができるなどの自制心の形成は,今回の対象である4歳児において発達していくものである20)。5歳になると,落ち着きと協調性が備わっていく21)。4歳児においては,まだ行為の問題,仲間関係の問題が明確にならないため,運動特性との関連も明らかとならない可能性が示唆された。

これらのことから,行動面での困難さと運動特性との関係は,4歳児ではまだ明確には出ておらず,さらには男女差もはっきりとは出ていないことがわかる。この結果は,岩坂らの研究と同様のことが明らかとなった19)。岩坂ら19)は,4歳児よりも5歳児になって行動面で問題が生じる男児が存在すること,4歳時点から5歳時点で行為,多動性が指摘されるケースが増えること,女児では5歳時点で多動などの行動面と情緒面での支援ニーズが減少することを示している。これは,4歳児より5歳児の方が,より集団でのルールや社会性が求められる年齢に上がっていき,行動面での不適応が目立ちだす男児が少なくないことが示唆されている19)。本研究でも,4歳児よりも,成田・大西(2024)の5歳児の研究11)の方が,より行動面での困難さと運動特性との関係が明らかとなった。4歳児は,運動面では平衡感覚が高まり,「~しながら,〇〇する」のように,身体のコントロールができるようになり,行動面では「使いたいおもちゃがあるけれども友達に貸してあげる」などの葛藤を経験する中で感情の抑制ができ始める時期である17)。このように落ち着きや感情のコントロール,向社会性が育っていくのであろう。5歳児は,運動遊びが活発になり,運動面では跳躍系の動きにも挑戦するようになり,行動面では,共通の体験を通して仲間意識が芽生え,協調性が育つ時期である17)。4歳児よりも5歳児なると仲間同士のつながりができ,他者を援助することで自己信頼感も培われていく。これらが,4歳児までは,多動/不注意の問題,情緒の問題,向社会的な行動と運動面が関係し,5歳児になると行為の問題,仲間関係の問題まで運動面と関係がみられるようになると考えられる。

4.保育時の適切な支援方法の検討

本研究では,4歳児の多動/不注意の問題が両足連続跳び越しと,情緒の問題が立ち幅跳びと,向社会的な行動が両足連続跳び越し,捕球と関係性を示した。この行動面での困難さと運動特性との関係から,4歳児の保育活動の中で,両足連続跳び越し,立ち幅跳び,捕球の運動特性である力強さ,タイミング,すばやさを取り入れることで,行動面での発達課題への対応が期待できると考えられる。そこで,幼児期の発達過程と運動特性を考慮した支援方法を提案する。4歳から5歳は,全身のバランスをとる能力が発達し,身近にある「用具を使って操作するような動き」も上手くなる時期である15)。この時期には,基本的な運動能力や眼球運動・視知覚認知を高め,周りの状況把握が行えるようになることが必要である。これは,友達と一緒に運動することに楽しさを見出し,環境との関わり方や遊び方を工夫しながら発達していくものである。さらに遊びの中で,簡単なルールのある集団遊びをしたり,大人の動きをまねるなどに興味をもち,これが運動企画につながっていくのである。この頃には,運動特性の力強さ,タイミング,すばやさを含んだ遊び,例えば,雑巾がけや走りながら低い障害物を飛び越えるなどを経験することが必要である。子ども自身が楽しめる・挑戦したくなる環境設定が重要である。このとき,不安が強い子どもには失敗しても再挑戦できる環境を,注意が持続しない子どもには距離を短くするなど,個別的アプローチも並行して行うことで社会性が育まれるのである。さらには,障害物を飛び越えるリレー遊びの中で,「踏み切る」「空中での制御」「着地」など3個ワンセットの活動に挑戦し始めるのも有効である22)。これらは集団の中で協力し,競い合い,励まし合う経験が「みんなの中での自分」を意識するメタ認知が形成されていくのである17)。怖がる子どもには低いハードルを用意したり,集中が続かない子どもは順番を早くするなど,個々に配慮しながら集団での学びの中に入ること,そこで自信をつけることが重要である。このような幼児期の実行体験が成人してからの社会性に大きく影響するとされている17)

以上が,発達過程と運動特性を考慮した支援方法の提案である。実際に支援が必要と思われる子どもを目の前にして,具体的にどうかかわるかが,保育者であってもわかりづらいという声がある19)。このように,発達過程と運動特性を示すことで,保育者においては,運動特性と行動特性から保育時の適切な支援方法の選択が促され,保育の質の向上や保育者の対応力の向上につながることが考えられる。

結論

4歳児を対象とした本研究結果や,同方法で実施した5歳児の研究結果11),岩坂らの研究19)からわかることは,4歳児よりもむしろ5歳児になって行動面での問題が明らかになることである。特に,男児に多い。そのため,4歳児の時点から,力強さ,タイミング,すばやさを含んだ遊び運動を集団の中で実施することで,行動面での困難さの早期対策につながることが期待される。

References
 
© 2025 一般社団法人 日本予防理学療法学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
feedback
Top