2025 年 5 巻 1 号 p. 44-51
【目的】理学療法終了後の地域在住変形性膝関節症患者における経過について報告は少ない。本研究では理学療法終了時と終了後6ヶ月時の臨床スコア・身体機能を比較し,その推移を調査した。【方法】理学療法終了時・終了後6ヶ月時に質問紙の回収と身体機能の測定ができた地域在住女性15名(69.2±7.5歳)を対象とした。質問紙では臨床スコア・運動習慣を確認し,身体機能は可動域・柔軟性・筋力測定を実施した。統計学的処理は理学療法終了時と終了後6ヶ月時を比較するため,正規性の検定後に2群間比較,効果量の抽出を実施した。【結果】終了後6ヶ月時に疼痛・日常生活動作に関する臨床スコア、膝伸展筋力・股関節外転筋力が有意に低下した。【考察】理学療法を終了した地域在住者は終了時と比較して臨床スコア・身体機能が低下を示すため,定期的な機能測定の重要性が示唆された。
Objective: There are few reports on the progress of patients with knee osteoarthritis living in the community after completion of physical therapy. In this study, we compared clinical scores and physical function at the end of physical therapy and 6 months after the end of physical therapy.
Methods: Fifteen women (69.2 ± 7.5 years old) living in the community who were able to collect questionnaires and measure physical function at the end of physical therapy and 6 months after the end of physical therapy were included in the study. The questionnaire confirmed clinical scores and exercise habits, and physical function was measured by range of motion, flexibility, and muscle strength. Statistical treatment was performed to compare the two groups at the end of physical therapy and 6 months after the end of physical therapy, after the test of normality, and to extract the effect size.
Results: Clinical scores on pain and activities of daily living, knee extension muscle strength, and hip abduction muscle strength decreased significantly at 6 months after completion.
Conclusions: Community residents who completed physical therapy showed a decline in clinical scores and physical function compared to those at the time of completion, suggesting the importance of regular functional measurements.
変形性膝関節症(knee osteoarthritis:以下,KOA)は不可逆性の軟骨損傷を有する。KOAの有病率は60~70歳33%から80歳以上43.7%と加齢とともに増加する特性を持っている1)。またKOAの有病者は身体機能や日常生活動作の制限が増悪しやすい2)。KOAの特性として発症年代が40代であること3)や自然回復が難しいこと4)から長期的な罹患を強いられる。さらにKOAは平均年間関節腔狭小化推定速度0.13±0.15mm/年とされる緩徐な進行が報告される5)。このことは理学療法を終了した地域在住者においても例外ではない。不可逆性で緩徐な進行を呈する変性・損傷軟骨下での生活を余儀なくされる。このため,疼痛の発生予防・再発予防・重症化予防は重要である。
近年,KOAは発症や進行予防の重要性が指摘されている4,6)。しかし理学療法通院を終了した地域在住者における臨床スコア・身体機能の推移についての報告は渉猟しえなかった。我々は理学療法終了後6ヶ月時の臨床スコア・身体機能の推移を明らかにすることが,理学療法終了後の再発予防・重症化予防のための取り組みに活用できると考えている。
本研究では理学療法終了時と終了後6ヶ月時における臨床スコアと身体機能を比較することから理学療法終了後の推移について明らかにすることを目的とした。
2021年2月〜2024年1月の間に理学療法通院を終了したKOA患者39名を対象とした。対象には理学療法終了時に,疼痛予防を目的とした「膝痛予防健康チェック:(以下,ヒザ健)」の取り組みを紹介した。ヒザ健は希望者に対し理学療法終了後6ヶ月時に身体機能測定を実施し,結果の報告と自宅でのセルフエクササイズを紹介している。ヒザ健の紹介には同意書を含むパンフレットを用いた。対象のうち7名はヒザ健の希望がなかった。ヒザ健への参加希望をする32名に対して,理学療法終了後6ヶ月時のヒザ健受診時期に合わせ,封書による案内を郵送した。郵送者のうち,実際に身体機能測定を実施できたものは15名(69.2±7.5歳)であり,これらを解析対象者とした。
基礎情報として性別・年齢・身長・体重,画像所見として医師が読影したKellgren-Lawrencen分類(以下,KL分類)をカルテ情報より調査した。
本研究の参加者はヒザ健の説明時に同意書を用いた説明を実施した。同意の得られたものを対象者とし,封書の郵送を実施した。封書の郵送を受け,身体機能測定ができた解析対象者を研究利用した。なお本研究は当院倫理委員会の承認を得ている(承認番号20241226)。
本研究は過去にヒザ健を受診した解析対象者を対象とした後ろ向き研究である。解析対象者は全例,理学療法終了時から終了後6ヶ月時までの間に再受診や別部位での理学療法介入が開始になったものが含まれていないため, KOAを有する地域在住者であると言える。なお解析対象者におけるKL分類による重症度分類は理学療法介入側ではgrade1:2名,grade2:7名,grade3:4名,grade4:2名であった。理学療法非介入側ではgrade1:2名,grade2:6名,grade3:4名,grade4:3名であった。理学療法通院時の介入側の決定は医師の指示に基づいて決定した。なお本研究の解析対象者は全例,片側介入であった。解析に伴い,理学療法通院時の介入側を疼痛の再発予防側(以下,再発予防側)と定義し,対側は理学療法通院時に介入対象ではなかったことから疼痛の発生予防側(以下,発生予防側)と定義した。このため,研究1として再発予防側の推移,研究2として発生予防側の推移について検討を実施した。
2.評価項目解析対象者は終了時・終了後6ヶ月時に質問紙の回答と身体機能の測定を片側ずつ実施した。質問紙は,自記入式質問紙であるKnee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(以下,KOOS)7),High -Level Activities of Daily Living(以下,HL-ADL)8)とし,終了後6ヶ月時のみ現在の運動習慣について聴取した。KOOSはサブスコアであるKOOS-pain,KOOS-ADLの点数をスコアリングに基づき,算出した。スコアリングの最高値は100点,最低値は0点となる。KOOSは性別別・肥満指数別の地域在住者平均値が報告され,基準値として活用がなされている7)。
HL-ADLは40-50代でも制限が生じうる5つの高難度なADLの困難度について聴取する患者立脚式質問紙である8)。設問は「床から立ち上がる動作」「床にしゃがみ込む動作」「正座」「小走り」「階段の駆け上がり」とし,回答項目は「できない(1点)・痛いができる(2点)・できる(3点)」である。設問ごとに三者択一にて回答項目を選択し,合計値を算出した。すなわち最高点15点,最低点5点のスコアリングとなる。HL-ADLはWestern Ontario and McMaster Universities Arthritis Indexと比較して天井効果を受けにくい特性を持ち,地域在住者の基準値が13点であることを報告している8)。KOOS・HL-ADLは終了後6ヶ月時のスコアを終了時のスコアで除し,%比率とすることで改善率を算出した。またKOOS・HL-ADLはそれぞれの地域在住者における基準値を用い,対象者ごとに終了時・終了後6ヶ月時に地域在住者基準値の達成の可否を調査した。
運動習慣については,運動行動の変容段階を決定するための5項目からなる尺度を利用した9)。5項目はトランスセオレティカル・モデルに基づき,運動行動変容ステージとして「維持期」「実行期」「準備期」「関心期」「無関心期」と定義した。設問は「現在,定期的に運動している。また6ヶ月以上継続している(以下,維持期)」「現在,定期的に運動している。しかし始めてから6ヶ月以内である(以下,実行期)」「現在,運動をしている。しかし定期的ではない(以下,準備期)」「現在,運動はしていない。しかし6ヶ月以内に始めようと思っている(以下,関心期)」「現在,運動はしておらず,今後もするつもりはない(以下,無関心期)」とした。
身体機能測定は可動域測定・柔軟性測定・筋力測定とし,両側の計測を実施した。
可動域測定は過去の方法10)に準じ,膝関節屈曲・伸展可動域とした。測定方法は臥位での自動運動とし,国際標準角度計R-360-w(松吉医療器械社製)を用いた。測定角度は1°刻みとした。
柔軟性測定はStraight Leg Raise test(以下,SLR)・股関節内旋・足関節背屈とした。測定方法は過去の方法10)に準じ臥位での他動運動とし,膝関節伸展位での足関節背屈のみ自動運動での計測とした。測定には国際標準角度計R-360-w(松吉医療器械社製)を用い,1°刻みでの計測とした。
筋力測定は徒手筋力測定器を用いた計測と体重計を用いた計測の2つの方法とした10-12)。徒手筋力測定器を用いた計測では膝関節伸展筋力(以下,伸展筋力)・膝関節屈曲筋力(以下,屈曲筋力)・膝関節深屈曲筋力(以下,深屈曲筋力)・股関節外転筋力(以下,外転筋力)とした10,11)。伸展筋力・屈曲筋力・深屈曲筋力の測定肢位は膝関節屈曲90°位での下垂座位とした。外転筋力の測定肢位は,膝関節完全伸展位での臥位にて計測した。測定方法は等尺性収縮による計測とした。測定には徒手筋力測定器 (酒井医療社製,mobie)を用い,Make testにて最大値を採用した。このため測定値は瞬間最大値となる。測定値は体重で除し,体重比を算出した。体重計を用いた計測では膝関節伸展筋力(以下,VM筋力),膝関節屈曲筋力(以下,SM筋力)とした10-12)。体重計を用いた測定では,両上肢を組んだ長座位での計測とした。VM筋力の測定では膝窩部に直径50mmのコルク棒を入れた状態で体重計に乗せ,quad settingの要領で膝関節伸展運動を実施させた。収縮に際し踵部は床面に接地させ,反動をつけないように説明を実施した。SM筋力の測定は膝関節屈曲120°位で踵部を体重計に乗せ,膝関節屈曲運動を実施した。測定にはデジタル体重計 (ドリテック社製,BS-162)を用いた。測定値は3秒間保持できた数値が表示されるホールド機能を用い,表示された数値を採用した。このため測定値は持続収縮保持値となる。測定値は体重で除し,体重比を算出した。
全ての身体機能測定の結果は,終了後6ヶ月時の数値を終了時の数値で除し,%換算した改善率を算出した。また改善率100%以上を満たした維持数(以下,維持数)と維持数の割合(以下,維持率)について明らかにした。
3.統計解析統計学的検討は研究1,2ともにShapiro-Wilkの検定を実施したのち,対応のあるt検定・Wilcoxonの検定による差の検定・効果量の抽出を実施した。また質問紙項目における地域在住基準値の達成可否の有無における前後比較はχ2乗検定を用いた。統計処理にはR,4.2.1,The R Foundationとし,有意水準は5%とした。
終了後6ヶ月時に案内を郵送した32名のうち,実際に身体機能測定ができた解析対象者は15名(46.8%)であった。解析対象者の属性をまとめる(表1)。
解析対象者における終了後6ヶ月時の運動習慣は維持期6名(40.0%),実行期0名(0.0%),準備期3名(20.0%),関心期1名(6.7%),無関心期3名(20.0%),非回答2名(13.4%)であった。
研究1:再発予防側での臨床スコアと身体機能の推移
再発予防側の臨床スコアではKOOS-pain(終了時:85.9±18.3点,終了後6ヶ月時:82.0±19.3点)が有意に低下した(p<0.01)。KOOS-painの維持数は7名(46.7%)であった。臨床スコア3項目全てにおいて終了時における地域在住基準値の達成有無によって終了後6ヶ月時における地域在住基準値の達成有無に差を認めた(p<0.01)。KOOS-painのみ終了時に地域在住基準値に達した8名のうち2名が終了後6ヶ月時に地域在住基準値より低値となった。KOOS-ADL・HL-ADLでは終了時に地域在住基準値に達したものは,終了後6ヶ月時にも地域在住基準値に達していた。臨床スコア3項目全てにおいて終了時に地域在住基準値に達していないものが,終了後6ヶ月時に地域在住基準値に達成するものはいなかった(表2)。
身体機能において終了時と終了後6ヶ月時の比較では伸展筋力体重比(終了時:3.4±1.0N/kg,終了後6ヶ月時:2.8±0.6N/kg),外転筋力体重比(終了時:2.0±0.3N/kg,終了後6ヶ月時:1.8±0.4N/kg),SLR(終了時:72.7±6.7°,終了後6ヶ月時:68.8±6.9°)に有意差を認めた(p<0.05)。(表3)。
研究2:発生予防側での臨床スコアと身体機能の推移
発生予防側の臨床スコアではKOOS-pain(終了時:93.5±12.4点,終了後6ヶ月時:89.1±15.7点),KOOS-ADL(終了時:95.1±11.3点,終了後6ヶ月時:91.6±14.7点)において有意に低下した(p<0.05)。HL-ADL(終了時:13.0±3.0点,終了後6ヶ月時:11.7±4.6点)に有意差を認めなかったが,低下傾向を示した。地域在住基準値の達成可否については再発予防側同様,終了時における地域在住基準値の達成有無によって終了後6ヶ月時における地域在住基準値の達成有無に差を認めた。(p<0.01)。地域在住基準値の維持数は終了後6ヶ月時に低下を示しており,KOOS-pain:2名,KOOS-ADL:1名,HL-ADL:2名が地域在住基準値に達成できなかった。また終了時に地域在住基準値を満たしていないものが,終了後6ヶ月時に地域在住基準値に達したものはいなかった。(表4)。
身体機能では終了時と終了後6ヶ月時の比較において伸展筋力体重比(終了時:3.6±1.0N/kg,終了後6ヶ月時:3.4±5.8N/kg),屈曲筋力体重比(終了時:2.1±0.6N/kg,終了後6ヶ月時:1.1±0.3N/kg),深屈曲筋力体重比(終了時:1.9±0.4N/kg,終了後6ヶ月時:0.9±0.3N/kg),VM筋力体重比(終了時:0.23±0.04kg/kg,終了後6ヶ月時:0.13±0.04kg/kg),SM筋力体重比(終了時:0.15±0.03kg/kg,終了後6ヶ月時:0.07±0.03kg/kg),外転筋力体重比(終了時:1.8±0.4N/kg,終了後6ヶ月時:1.0±0.2N/kg)に有意差を認めた(p<0.05)。特に屈曲筋力体重比・深屈曲筋力体重比・VM筋力体重比・SM筋力体重比・外転筋力体重比では維持率0%であった。(表5)。
本研究では理学療法終了時と終了後6ヶ月時の臨床スコアと身体機能の推移を後ろ向きに比較検討することを目的とした。その結果,再発予防側・発生予防側の双方の推移において,臨床スコア・身体機能の低下を認めた。
研究1:再発予防側では理学療法通院中の介入側を対象とした。理学療法通院中の介入側において終了後6ヶ月での推移を明らかにすることから再発予防を念頭とした取り組みと考えている。再発予防側の結果としてKOOS-painが終了後6ヶ月時に有意に低下した。終了後6ヶ月時に改善率100%以上を維持できた維持率は46.7%と半数以上が低下を示し,また地域在住基準値達成数も低下した。このため,再発予防側は終了後6ヶ月時には終了時と比較して疼痛主訴が異なる可能性がある。
再発予防側の身体機能は伸展筋力体重比・外転筋力体重比・SLRに有意差を認めた。特に伸展筋力体重比は効果量も高く,改善率42.9%,維持率6.7%と多くの症例で低下を認めていた。伸展筋力低下とKOA の関係性は様々に報告されている13-15)。KOA 患者における筋力はKL分類ではなく,痛みに影響され14),膝痛が強いと膝伸展筋力が低下する15)。外転筋力低下は,前額面での骨盤水平保持機構に破綻をきたし,膝内反モーメントの増大の一因となる16)。SLRが反映するハムストリングスの柔軟性改善が膝関節への負担軽減による膝痛と機能障害の改善につながるとされる15)。これらの報告から再発予防側の身体機能において有意差を認めた項目と疼痛との因果関係について今後,検討を進めたい。
その一方で,KOOS-ADL,HL-ADLには有意差を認めなかった。この2項目は推移において有意水準を満たさず,効果量も小さい。また地域在住基準値達成数は終了後6ヶ月時でも同数であり,改善率99.0%以上,維持率66.7%以上であった。このため再発予防側ではADL能力の低下が起こりにくい可能性がある。
また研究2:発生予防側では理学療法通院中に理学療法介入を実施していない無症候性KOA側を対象とした取り組みとなる。発生予防側の結果としてKOOS-pain,KOOS-ADLが有意に低下した。臨床スコア3項目全てにおいて点数の低下・地域在住基準値達成数の低下を認めた。発生予防側は終了後6ヶ月時には終了時と比較して疼痛主訴・日常生活動作能力が異なる可能性がある。
発生予防側の身体機能では,伸展筋力体重比・屈曲筋力体重比・深屈曲筋力体重比・VM筋力体重比・SM筋力体重比の低下を認め,それぞれの効果量も高値であった。伸展筋力低下は女性において関節裂隙狭小化のリスクを増加させる13)。膝伸展筋力の向上が疼痛緩和と身体機能の改善に寄与する17)。また屈曲筋力低下はKOAの重症化リスクの増加と関連するため重症化の危険因子である18)。これらの報告からもKOA患者における伸展筋力・屈曲筋力の測定は重要である。このため,我々は筋力測定の方法を伸展筋力体重比・屈曲筋力体重比・深屈曲筋力体重比・VM筋力・SM筋力の5項目とした。特にVM筋力・SM筋力は徒手筋力測定器での計測による瞬間最大値と異なり,持続収縮値を採用することで測定意義が異なる。我々はこれらの測定項目についてそれぞれに基準値の検討を実施している。屈曲筋力体重比と臨床スコアの関係について3ヶ月保存療法介入による臨床最小効果量を満たすには屈曲筋力体重比の改善率が1ヶ月時:+7.94%,3ヶ月時:+19.41%が必要である11)。深屈曲筋力体重比は,KOA 患者の課題とされる内側ハムストリングスの筋活動の低下を描出する測定方法19)であり,歩行時痛の有無を判断する基準値として1.38N/kgが必要である19)。VM筋力体重比と臨床スコアの関係について3ヶ月保存療法介入による臨床最小効果量を満たす基準値は0.21kg/kgであり11),昇段痛の有無を判断する基準値も0.21kg/kgである12)。SM筋力体重比では昇段・降段痛の有無を判断する基準値が0.11kg/kgである12)。本研究における発生予防側は有意差を認めた項目の多くが維持率0%であり,これらの基準値との関連性から身体機能の低下についてより詳細な検討を進めたい。
身体機能において発生予防側では柔軟性に有意差を認めなかった。柔軟性の測定項目はSLR・股関節内旋可動域・足関節背屈可動域を選択した。股関節内旋制限は関節裂隙狭小化との関連性が報告され21),足関節背屈制限は膝関節外反や内側偏位を起こすとし,膝痛患者での背屈制限が報告されている22)。これら膝痛に寄与する身体機能の低下を予防することは重要16)であり,測定項目として使用した。しかし股関節内旋可動域・足関節背屈可動域には有意差を認めなかった。今後,対象者の拡充による追加検討を実施したい。
本研究の結果として,臨床スコアにおいて終了時に地域在住者基準値を満たしているものは有意に終了後6ヶ月時にも基準値を満たしていた。このことは終了時に地域在住基準値を達成することが6ヶ月経過における臨床スコアを維持するための一つの目標値となり得ると考えられる。今後,終了時の目標値としての意義について検討したい。
本研究では再発予防側・発生予防側の両側において筋力低下を認めた。運動頻度においてアメリカスポーツ医学会による筋力トレーニングの指針として50-60歳の高齢者は週2-3回の運動頻度を推奨している20)。対象者には理学療法通院時よりできる限り毎日の運動を進めているが,本研究では運動頻度について未聴取であった。運動習慣における維持期の割合について25.4%9),44.1%23)と報告される。本研究の対象者は維持期6名(40.0%)であった。今後,運動頻度の聴取を加えることで運動頻度・運動習慣が疼痛や筋力低下に与えた影響について検討をしたい。
本研究では再発予防側と発生予防側の比較は未実施であるが,発生予防側では筋力低下が著明であり,再発予防側と比較しても数値が低値傾向を示している。その成因について理学療法通院時に介入指示がなかった発生予防側への動作依存が残存したことによる関節面へのストレスが顕在化した可能性がある。現在,再発予防側と発生予防側の比較を開始しているが,関節内水腫量と相関する内側上膝動脈血流速度において発生予防側が悪化しているなど発生予防側への関節面へのストレス増加を示す所見が散見されている。今後,詳細について報告を予定している。
本研究は地域在住女性の理学療法終了後6ヶ月の推移を再発予防側と発生予防側に分けて解析したことに意義がある。OAの病態は進行性疾患であり,加齢に伴う膝機能の低下により,日常生活動作が制限される2)特性を持つ。近年,KOAにおいて疾病の発症や進行を遅らせるための取り組みが推奨され6),進行予防するための疫学的研究や介入研究の必要性が報告されている24)。本研究において理学療法通院が終了し,地域在住者となったものの推移が明らかになることからこれらの予防の取り組みに寄与する結果を抽出できると考えている。KOA は有病率と有症率の不一致が報告され,X線所見が必ずしも痛みを反映しない14)。このため無症候性KOAが存在する。KOAは有症者であっても病院の受診者は4例に1例であり,疼痛自覚による受診は少ない25)。一般労働者を対象とした調査では労働生産性への影響が明らかになる前に先行して身体機能の低下が起こっている可能性を報告している26)。つまり痛くなってから受診するのではなく,定期的な身体機能測定により身体機能の低下を早期に発見することにつながる可能性がある。
本研究の研究限界として,年齢での規定がなされていないこと・性別が限定されていること・参加者率が高くないことが挙げられる。症候性KOAではその有病率は女性のみ年齢とともに増加すること1)や男女間で進行リスクにおける身体機能に差異があること13)など性差が報告されており,本研究はバイアスがかかっている。また参加率はコロナ禍の行動制限の影響を受けている可能性がある。今後,対象者数のさらなる拡充により生活習慣,栄養状態,年齢や性別など運動器に影響する多因子についても広く調査したい。
地域在住女性を対象に理学療法終了時と終了後6ヶ月時の臨床スコア・身体機能の推移について明らかにした。理学療法を終了した地域在住者であっても地域生活を送る中で理学療法終了時と比較して疼痛主訴・身体機能の変化を生じていた。今後さらなる対象者の拡充から疼痛と身体機能の関係性の検討や疼痛の再発予防・重症化予防の取り組みに繋げたい。
開示すべき利益相反はございません。