抄録
「目的」内側型膝OA における膝関節運動力学的負荷の指標として外部膝関節内反モーメントとlateral thrust があり,内側型膝OA の発症・進行を予防するためにこれらを軽減することが重要である。T 字杖の効果として,免荷や疼痛緩和,バランス改善に加え,運動力学的負荷を軽減させることも報告されている。外部膝関節内反モーメントとlateral thrust に対するT 字杖の効果について,独歩とT 字杖を比較した報告は散見されるが,T 字杖の長さの影響に関する報告はない。そこで,本研究の目的は,内側型膝OA 患者に対し独歩と3 段階に長さを規定したT 字杖歩行の4 条件を比較し,外部膝関節内反モーメントとlateral thrust に与える影響について検討した。「方法」対象は内側型膝OAと診断され,手術適応となった術前9名9膝(男性3名,女性6名)とした。平均年齢は66.9 ± 7.6歳,Kellgren-Lawrence分類はⅡ:1名,Ⅲ:3名,Ⅳ:5名であった。歩行動作の評価は,三次元動作解析装置と4枚の床反力計を用いて測定した。運動課題は,8mの快適速度歩行とし,1)独歩,2)T字杖歩行(a.肘関節完全伸展位,b.肘関節30°屈曲位,c.肘関節90°屈曲位)の4条件で測定した。測定項目は,最大外部膝関節内反モーメント,lateral thrust,床反力,身体重心から膝関節中心の距離,歩行速度とした。統計処理は,一元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。「結果」すべての測定項目において,独歩と3段階のT字杖歩行の4条件間に有意差を認めなかった。「結論」有意差を認めなかった要因として,過去の報告と比較して,サンプルサイズが小さく,杖歩行の習熟度の低さや,対象の力学的特性の違いが考えられた。今後,サンプルサイズを増やし,また対象の特性を揃えて検討していくことで,本研究を発展させていきたい。