2021 年 1 巻 2 号 p. 1-11
持続可能な農業における今後の食糧生産において, 地場産業を生かした微生物資材の開発は喫緊の最重要課題となっている。本研究では, 福島県内の持続可能な農業生産に活用できる堆肥資材として南相馬市で主に地域イベント用に飼育されている引退競走馬の馬糞の利用価値に着目し, ベンチスケールの堆肥化試験を行った。4 週間の堆肥化 (30 ºC, 切り返し週1〜2 回) によってリン, 窒素, カリ等の肥効成分の比率が増加し, C/N 比も成熟堆肥の理想的な数値 (27.4) に到達したことが明らかとなった。16S rRNA 遺伝子の次世代シーケンスによる堆肥化前後の菌叢解析では, 堆肥資材として使用した馬糞には盲腸由来であると考えられる偏性嫌気性細菌の未培養種が高頻度で確認されたのに対し, 熟成後の堆肥には芽胞形成菌, 好気性もしくは通性嫌気性菌, 好熱菌など, 酸素存在下で有機物分解を行う熟成過程で生残できる特徴を有する細菌が優勢的に検出され, 熟成前後で菌叢構造が著しく変化するのが判った。また, 堆肥の熟成後の発芽率や酸素消費量も適正であったことから, 引退競走馬由来の馬糞はウシやブタ等の家畜排泄物に比べて, 省スペース且つ短期間の発酵時間で良質な成熟堆肥を製造する微生物資材として利用性が高いと考えられた。今回得られた結果をもとに, 被災地発の新しい持続可能な微生物資材の創出に向けて実用的な観点から科学的検証を重ね, 社会的実装を考慮しながら今後も継続して行う予定である。