復興農学会誌
Online ISSN : 2758-1160
原著論文
土壌の酸性化が可能な黒麹菌の探索
千木良 裕子横山 正山形 洋平
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2021 年 1 巻 2 号 p. 12-23

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抄録

黒麹菌は,泡盛焼酎の製造に使用される麹菌でクエン酸生産能が高いことが知られている。福島県の土壌中に固着した放射性セシウムを植物に吸収させ除去するためには,土壌を酸性にして放射性セシウムを土壌粒子から遊離させる必要がある。本研究では,自然界への影響が少なく安全性を担保することが可能であり,かつ十分量の有機酸を生産しうる黒麹菌を土壌に散布し,効率的に土壌を酸性化することを目的としている。まず酒類総合研究所がこれまで泡盛焼酎の製造に関わるものとしてコレクションしていた Aspergillus luchuensis 並びに A. niger を取得し,これらの中から酸生産能を指標に株の選抜を行った。固体培養,液体培養それぞれで経時的に酸の生産を調べ,比較的酸性度の高かった 6 株を候補株として選択した。さらに,冬期の福島県の気候を考慮し低温でも生育・酸生産のできる株の探索を行った。最終的に通常の培養温度だけでなく,低温培養においても酸性度が高くかつ経時的な酸生産能の高い A. luchuensis RIB2503 株を候補株とした。また,この候補株が他の黒麹菌と比較して酸生産能が高い理由を明らかにするため,クエン酸生産に関係する遺伝子の転写量変化を経時的に測定した。候補株ではクエン酸合成酵素の転写が時間経過と共に上昇することが示され,今回選択したA. luchuensis RIB2503 株が福島県の土壌の再生に有用な,比較的長期間にわたって酸生産が可能な株であることが示唆された。

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