復興農学会誌
Online ISSN : 2758-1160
1 巻, 2 号
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原著論文
  • 馬糞堆肥の微生物叢と堆肥成分の解析
    西村 順子, 池田-大坪 和香子
    2021 年1 巻2 号 p. 1-11
    発行日: 2021/07/30
    公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    持続可能な農業における今後の食糧生産において, 地場産業を生かした微生物資材の開発は喫緊の最重要課題となっている。本研究では, 福島県内の持続可能な農業生産に活用できる堆肥資材として南相馬市で主に地域イベント用に飼育されている引退競走馬の馬糞の利用価値に着目し, ベンチスケールの堆肥化試験を行った。4 週間の堆肥化 (30 ºC, 切り返し週1〜2 回) によってリン, 窒素, カリ等の肥効成分の比率が増加し, C/N 比も成熟堆肥の理想的な数値 (27.4) に到達したことが明らかとなった。16S rRNA 遺伝子の次世代シーケンスによる堆肥化前後の菌叢解析では, 堆肥資材として使用した馬糞には盲腸由来であると考えられる偏性嫌気性細菌の未培養種が高頻度で確認されたのに対し, 熟成後の堆肥には芽胞形成菌, 好気性もしくは通性嫌気性菌, 好熱菌など, 酸素存在下で有機物分解を行う熟成過程で生残できる特徴を有する細菌が優勢的に検出され, 熟成前後で菌叢構造が著しく変化するのが判った。また, 堆肥の熟成後の発芽率や酸素消費量も適正であったことから, 引退競走馬由来の馬糞はウシやブタ等の家畜排泄物に比べて, 省スペース且つ短期間の発酵時間で良質な成熟堆肥を製造する微生物資材として利用性が高いと考えられた。今回得られた結果をもとに, 被災地発の新しい持続可能な微生物資材の創出に向けて実用的な観点から科学的検証を重ね, 社会的実装を考慮しながら今後も継続して行う予定である。

  • 千木良 裕子, 横山 正, 山形 洋平
    2021 年1 巻2 号 p. 12-23
    発行日: 2021/07/30
    公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    黒麹菌は,泡盛焼酎の製造に使用される麹菌でクエン酸生産能が高いことが知られている。福島県の土壌中に固着した放射性セシウムを植物に吸収させ除去するためには,土壌を酸性にして放射性セシウムを土壌粒子から遊離させる必要がある。本研究では,自然界への影響が少なく安全性を担保することが可能であり,かつ十分量の有機酸を生産しうる黒麹菌を土壌に散布し,効率的に土壌を酸性化することを目的としている。まず酒類総合研究所がこれまで泡盛焼酎の製造に関わるものとしてコレクションしていた Aspergillus luchuensis 並びに A. niger を取得し,これらの中から酸生産能を指標に株の選抜を行った。固体培養,液体培養それぞれで経時的に酸の生産を調べ,比較的酸性度の高かった 6 株を候補株として選択した。さらに,冬期の福島県の気候を考慮し低温でも生育・酸生産のできる株の探索を行った。最終的に通常の培養温度だけでなく,低温培養においても酸性度が高くかつ経時的な酸生産能の高い A. luchuensis RIB2503 株を候補株とした。また,この候補株が他の黒麹菌と比較して酸生産能が高い理由を明らかにするため,クエン酸生産に関係する遺伝子の転写量変化を経時的に測定した。候補株ではクエン酸合成酵素の転写が時間経過と共に上昇することが示され,今回選択したA. luchuensis RIB2503 株が福島県の土壌の再生に有用な,比較的長期間にわたって酸生産が可能な株であることが示唆された。

総説
  • -東京農業大学の東日本支援プロジェクトを中心に-
    門間 敏幸, 渋谷 往男, 半杭 真一, 黒瀧 秀久, 菅原 優
    2021 年1 巻2 号 p. 24-33
    発行日: 2021/07/30
    公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    本論は,2011 年に発生した東日本大震災からの農林業の復興に取り組んだ東京農業大学東日本支援プロジェクトの経験に基づき,災害復興支援活動展開のポイントについて自助・共助・公助の連携視点から災害フェーズごとに整理したものである。

    フェーズⅠ(復旧期)--- このステージでは,迅速な復旧技術の開発と普及が求められる。そのためには復旧ニーズの発見,問題解決技術の開発と現場への普及,学生などによる農家と一体となった生産基盤復旧のためのボランティア活動の組織的な展開が不可欠である。

    フェーズⅡ(復興期)--- このステージでは,復旧した生産基盤で新たな農業の展開を支援できる技術・情報の開発が求められる。そのためには,生産者が抱えている技術問題,経営・マーケティング上の問題点を把握し,そうした問題を解決できる総合的な技術・情報の開発が不可欠である。

    フェーズⅢ(創生期)--- 復興の成果を地域全体に広げて地域の創生を目指す時期である。こうした取り組みを展開するには,特定の支援機関だけでは限界があり,専門的知識やノウハウをもった多様な組織の参加が求められる。

  • 羽鹿 牧太
    2021 年1 巻2 号 p. 34-41
    発行日: 2021/07/30
    公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    東日本大震災から10 年が経過し多くの被災農地で営農再開が進んでいる。しかし原発事故による放射能汚染の影響を受けた地域では農作物の放射性物質吸収抑制対策へのコストや風評被害,農業者人口の減少や高齢化などで営農再開に支障が生じている。特に汚染が深刻であった避難指示区域は住民避難の長期化に伴う営農再開意欲の低下などさらに多くの困難に直面している。本稿ではこうした状況を打破するための原発被災地における営農再開に必要な技術開発について考察する。

オピニオン(首長インタビュー)
現場からの報告
  • 長正 増夫
    2021 年1 巻2 号 p. 59-62
    発行日: 2021/07/30
    公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    阿武隈山系に位置する人口約6,000 人の飯舘村は,山間高冷地という立地条件下,広大な山野を活かした畜産,冷涼な気候を生かした花きや高原野菜栽培が高い評価を得ていた。しかし,平成23 年3月の東京電力福島第一原子力発電所の原子力災害により,全村避難を余儀なくされ,村民は6年以上に及ぶ長期間の避難生活を強いられた。その結果,地域コミュニティーや村民生活は根底から破壊された。いいたて結い農園は村のほぼ中央にある大久保・外内地域に位置している。避難解除後の平成29 年に約25 人の有志で作った「大久保・外内復興隊」の活動で,地域の人達が集うことや共同作業の大切さを改めて知った。そこで,今後も継続して地域での共同事業を行うため,令和3年4 月に大久保・外内全世帯(49 戸)が構成員となり,「いいたて結い農園」(一般社団法人)が設立された。特に参加者は高齢者が多いことに鑑み,今まで培った栽培技術や忍耐力を要する荏胡麻や蕎麦など,雑穀類の栽培と加工販売事業や,福島大学や都市部の消費者団体などとの交流事業を積極的に行っている。「高齢者になっても元気で働ける地域」「なんとなく楽しい結の郷」を目標に,原発事故で失われた地域の再生を図りたいと思っている。

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