1995 年 41 巻 5 号 p. j21-j27
精液が淡褐色を呈する雄ブタの精子と精巣を光学および電子顕微鏡で調べた.このブタの乗駕欲は正常であり,妊孕能もあった.精液性状は,精液の色が淡褐色であることを除いてはほぼ正常であった.精漿は正常の無色,精子は淡褐色であった.精液の光学顕微鏡検査では,殆どの精子の頭部に1~ 数個の小球が見られた.これは大小不同で,直径は0.3μm前後であった.電子顕微鏡観察により,この小球は1)ミエリン様構造と,2)膜に包まれた高電子密度の顆粒の2種類であることが解った.これらは精子頭部の細胞膜,先体赤道部および先体後部鞘の直下にそれぞれ存在し,直上のこれら構造を押し上げて,精子表面に半球状の膨隆を形成していた.この2種の構造の他には,精子の微細形態には異常は見られなかった.精巣の光学顕微鏡観察では形態的異常は見られなかったが,電子顕微鏡観察では成熟期の精子細胞に異常が見られた.すなわち,将来の先体後部(後先体域)に細胞膜由来と思われる膜の重積が見られた.これは小規模のものでは一枚の限界膜からできた空胞から,大規模のものではミエリン様構造のものまで種々存在していた.射出精子で見られた高電子密度の顆粒は精子細胞には見られず,その他の微細形態的異常も見られなかった.射出精子に見られたミエリン様構造は,成熟期精子細胞の段階で出現したと思われる.また,高電子密度の顆粒は精子遊離後にミエリン様構造からできたのであろう.今回の検査からでは,この精子の着色の原因は明らかでなかった.