抄録
医学界においては内視鏡検査が広く行われているが,獣医界では未だ実験的段階にとどまっている。今回,人体用ガストロファイバースコープ(GF)を用い,牛の臨床繁殖学領域に内視鏡の応用を試みた。
GFとしては上部消化管検査用の汎用ファイバースコープ(オリソパス社製,GIF-typeP)に必要な一部の器具を加えたものを用いた。
検査牛は12時間以上絶食とし,術前に沈静剤投与,枠場内に起立保定した。
1) 腹腔内:予め洗浄したa腟壁上部を特別に設計した套管針を用いて穿刺し,外套管を通じてGFを腹腔に挿入する。卵巣表面,特に卵胞,黄体,または卵管,子宮表面の内視的観察,必要に応じて写真撮影も可能である。これにより,卵胞の成熟度,黄体の形成状態,癒着の有無,あるいは従来困難であった卵管外部表面の観察が可能である。
2)子宮内:子宮頸管を通じてGFを子宮内に挿入し,子宮内膜の観察,撮影が可能である。これにより,子宮内の異物,内膜の病変の確認,必要に応じて生検用鉗子を用いることにより直視下で内膜材料の採取も容易である。
3) 羊水採取:膣壁を穿刺し,骨盤腔内にGFを挿入,子宮壁を通じて羊膜嚢内から羊水を採取し得る。これにより,羊水の各種検査,細胞遺伝学的検索に供し得る。
以上のようにGFと外套管を組み合わせることにより,腹腔内,子宮内の観察,子宮内膜,羊水の採取が可能であって,臨床診断上利用価値も高い。