抄録
繁殖季節に入っても長期間発情徴候がなく交配ができなかったサラブレッド雌馬65頭,アングロアラブ5頭の計70頭84例について2~9mgのPGF2αを子宮内に注入,あるいは筋肉内に注射し発情の誘起効果を調べ,さらに誘起された発情期に交配して受胎成績を検討した試験で,次のような結果が得られた。
1.処置後,排卵を伴った正常な発情を出現したものが66例(78.6%),発情または排卵のいずれかいっぽうだけが認められたものが15例,これを合わせると84例中81例(96.4%)にPG処置の効果がみられた。
2.発情の出現時期は処置後1~15日の広範囲に亘ったが,とくに2~4日の間に集中しており,発情を出現した77例中60例(77.9%)がこの範囲に入った。また排卵は70例に認められたが,排卵時期は処置後3~29日の長期に亘った。しかしその大多数は処置後4~15日の間に認められた。
3.PG処置により発情誘起効果のみられたもののうち,実頭数で67頭に交配した結果,処置後の初回発情で35頭,第2回発情で8頭,計43頭(64.2%)が受胎した。
4.子宮内注入法と筋肉内注射法による発情誘起効果の比較では,同等の投与量で両方法の間に差異が見られず,馬の場合は他の動物でみられたような投与方法による効果の差異はみられなかった。
5.投与量別に発情誘起効果を比較すると,本試験の場合,比較的少量の3mg1回処置でもかなり良好な結果が得られたので,投与量の違いによって明瞭な効果の差異はみられなかった。しかし3mgずつ2~3回投与したものでは,排卵を伴った正常な発情が出現した割合はきわめて高かった。
6.個体によって強弱の差はあったが,処置した馬の約半数例にPG処置後発汗や全身的な震えなどの副作用が一過性に観察された。
以上の結果から,長期に亘って正常な発情が出現しないために交配のできない雌馬にPGF2αを投与することによって発情を誘起し,繁殖に供用できる状態に回復させることが可能なことを確認した。