抄録
【目的】演者らは,ドーパミン誘導体のSalsolinol (SAL)は,反芻家畜のプロラクチン(PRL)分泌と関係していることを初めて報告した(Domest. Anim. Endocrinol.,2007) 。本研究はPRL放出因子の一つとして知られる甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)や,PRL放出抑制因子ドーパミンとの関係をin vivo 及び in vitro で検討し,反芻家畜のPRL分泌に及ぼすSALの影響をさらに明らかにしようとした。
【方法】In vivoの実験では成熟雌シバヤギにSAL (5 mg/kgBW),TRH(2 µg/kg BW)又はSALとTRHを頚静脈内に投与し,投与1時間前から投与2時間後まで採血を行った。またスルピリド(ドーパミンのアンタゴニスト,0.1mg/kgBW),スルピリドとSAL(5 mg/kgBW)又はTRH(2 µg/kgBW)をそれぞれ投与し,同様に採血を行なった。In vitroの実験ではウシの培養下垂体前葉細胞にSAL(10-6M),TRH(10-8M),SALとTRH,ドーパミン(10-6M),ドーパミンとTRH又はSALをそれぞれ添加し,培養液中に放出されるPRL量の変化を調べた。
【結果】(1)SALとTRH をヤギの頚静脈内に同時投与すると両物質によるPRLの相加的な放出が見られた(P<0.05)。(2)スルピリドとTRH を同時投与した時のPRL放出はスルピリド単独又はSALとの同時投与時よりも高かった(P<0.05)。(3)ウシの培養下垂体前葉細胞にSALとTRH を同時添加してもPRLの相加的な放出は見られなかった。(4)ドーパミンはSAL又はTRHにより誘起された下垂体細胞からのPRL放出を抑制した(P<0.05)。本研究の結果は,SALは反芻家畜のPRLを放出させること,またSALはTRHやドーパミンと相互的に作用することを初めて示唆する。