抄録
哺乳類の生殖細胞系列は、胎生期に始原生殖細胞として尿膜基部に出現後、腸管を介して生殖隆起へ到達し、性腺の性分化に伴い、精子もしくは卵子への分化を開始する。卵巣では、全ての卵祖細胞は,性分化後すぐに増殖し、減数分裂を開始する。一方、精巣では、生後、精祖細胞として増殖を続け、その一部が減数分裂を開始し精子へと分化する。これまで、我々は、XY W/Wvマウスの精巣と生殖細胞を完全に欠如したXX/Sryマウス精巣間のマイクロアレイ解析から、精祖細胞で高発現する細胞内因子の一つとして Hu antigen B (HuB) を見出した。HuBは、Hu familyに属するRNA結合蛋白質であり、複数の転写産物の発現を制御することによって細胞分裂や神経分化に機能することが示唆されている。我々は、生殖細胞系譜におけるHuBの役割を明らかにするため、免疫組織化学によりマウスでのHuBの詳細な発現解析を行った。その結果、1) 性腺において、HuBは生殖細胞特異的に発現すること、2) HuBは、E8.5の始原生殖細胞から発現を開始し、その発現は雌雄の胎子生殖腺での生殖細胞においても維持されること、3) 雌でのHuB発現は、E17.5を境に発現が顕著に上昇し、その発現は生後の卵核胞期卵母細胞まで維持されること、4) 精巣でのHuB発現は、精祖細胞での強い発現が成体まで維持されるが、減数分裂開始に伴い精母細胞以降では消失することが明らかとなった。以上の結果から、生殖細胞系譜において、始原生殖細胞の腸管内への移動に伴いHuBを獲得し、雌では卵母細胞の減数分裂の休止中のmRNA維持に、雄では精祖細胞の増殖分裂あるいは減数分裂誘導に関与している可能性が考えられた。本大会では、現在解析中のデータも併せてHuBの生殖細胞系列における機能について考察したい。