抄録
私たちは以前に、クローンマウスの体細胞(卵丘細胞)からでもクローンマウスを作出できることを報告した。しかし、クローンマウスの成功率は世代を経るたびに徐々に低下し、たった1匹の6世代目のクローンマウスも食殺され、7世代目以降のクローンマウスを作成することはできなかった。クローン牛の場合は2世代目までと報告されている。しかし、当時のクローンマウスの成功率は1-2%であり、コントロール実験ですら産仔の作出に失敗することがたびたびあり、再クローニングに失敗した原因が、再クローニングには限界があるのか、成功率の低さが原因で失敗しただけなのか結論できなかった。[方法] 近年われわれの研究室ではTrichostatin A(TSA)を培地に加えることによってクローンマウスの成功率を劇的に改善することに成功した。そこでTSAを用いて再クローン実験を再挑戦することにした。最初に1匹のBD129F1(BDF1 x 129/Sv:三元交配)をドナーマウスに選び、2-3ヶ月齢で卵丘細胞を採取して最初の世代(G1)のクローンマウスを作出した。G2以降、同様に繰り返した。[結果] 現在までに7世代目まで生まれており、合計すると100匹以上のクローンマウスが1匹のドナーマウスから生まれたことになる。クローンマウスの成功率は1世代目18.0%、2世代目5.0%、3世代目4.5%、4世代目7.4%、5世代目13.2%、6世代目7.0%、7世代目6.5%であり、世代間でのばらつきは大きいが、世代が進んでも成功率の低下は見られなかった。また、いずれの世代においても体重と胎盤重量、および産直死率は通常のクローンマウスと同程度だった。現在7世代目のマウスは多数生存しており、間もなく8世代目を試みる予定である。[考察] 7世代目までの結果で結論を出すことはできないが、少なくとも現時点では再クローニングによる成功率の低下は見られないことから、クローン作成技術をより向上させることに成功すれば、クローン動物を無限に作り続けることができるようになるのではないだろうか。