抄録
【目的】ラット顕微授精(ICSI)において、精巣上体尾部から採取された精子から産子作出の報告がされている。精巣内精子においては報告があるものの、その胚発生率は精巣上体尾部精子に比べて著しく低い。さらに凍結保存した精巣内精子を用いたICSIの報告例はない。そこで本研究では、ラット精巣内精子の凍結保存と精子の核構造がICSI後の胚発生に及ぼす影響について検討した。【方法】本実験にはWistarラットを用いた。11週齢以上の雄の精巣から採取した精子をDiamide 0mM、1mM、5mM及び10mMを添加した10mM Tris-HCl+1mM EDTA(TE buffer)に懸濁し、1時間室温に静置後凍結保存した。融解後の精子は、頭部を超音波により分離し、過排卵処理を施した4週齢の雌より採取した卵子内にICSIを用いて導入した。6時間後に雌雄両前核を確認した卵子は、mR1ECM中で胚盤胞まで培養した。一方、精巣上体尾部より採取した精子は、DTT 0mM及び5mMを添加したTE bufferに懸濁し、1時間室温に静置後凍結保存した。融解後の精子は、精巣内精子と同様の方法を用いてICSIをおこない、得られた胚を胚盤胞まで培養した。【結果および考察】2細胞期まで発生した精巣内精子由来胚のうち、胚盤胞への発生率はDiamide 0mM、1mM、5mM及び10mMでそれぞれ0%、6%、21%及び18%であり、精巣内精子をDiamideで処理することにより、これら精子と受精した卵子は胚盤胞へ発生することが確認された。一方、精巣上体尾部精子由来胚の胚盤胞への発生率は、DTT 0mMの55%に対して5mMでは4%となり有意に低下した。DiamideおよびDTTはともに精子の核構造に関与することから、精子の核構造はICSI後の胚発生に影響を及ぼすと考えられる。また、Diamideにより核構造が変化した精巣内精子は凍結に対する耐性が向上し、凍結保存が可能であることが示された。