抄録
【目的】生理現象と密接に関係するペースメーカーの本体である時計遺伝子が末梢組織でも発現している。ペースメーカー発振の分子機構は、転写/翻訳のフィードバックループを形成する多くの時計遺伝子による促進・抑制の作用より成っている。このペースメーカーは生殖現象にも関与することが示唆されており、特に発情周期、妊娠や胚発生につれて刻々と変化する子宮環境においては時を刻む仕組みが必要である。マウスやラットとは生殖様式が異なるウシでは、黄体期の子宮環境が妊娠の初期と同じであること、さらに子宮内膜を上皮細胞と間質細胞に分離して培養することが可能であることなどの利点を生かし、ウシ子宮固有の時計機構の解明を進めている。本研究では、ウシの子宮内膜間質細胞および上皮細胞におけるペースメーカー振動の性質を明らかにすることを目的とした。
【方法】ウシの子宮内膜を無菌的に採取した組織片から増殖・遊走した間質細胞(BES)と上皮細胞(BEE)を分離採取して培養した。培養BESおよびBEEにおいて時計遺伝子の振動をリセットするために、50%ウマ血清で2時間処理した。その後、6時間毎に48時間にわたって総RNAを抽出し、逆転写してPCRによって時計遺伝子の発現を調べた。またリアルタイムqPCRにより時計遺伝子の発現変動を解析した。
【結果】RT-PCRでは両子宮細胞はいずれも主要な時計遺伝子の発現が認められた。またリアルタイムqPCRのデータをONE-WAY ANOVAで統計解析すると、Bmal1遺伝子の発現振動はBESおよびBEEいずれも有意な変動が認められた。しかし、BESでは48時間で2回の振動が見られたのに対し、BEEでは1回のみの振動を示した。一方、Per1遺伝子の発現はBEE,BESのいずれにおいても有意な変動を示さなかった。以上、リセット因子によって時計遺伝子の発現は認められるが、連続的な振動の発生には至っていない。このことは細胞培養の条件に原因があることが考えられ、今後検討することが必要である。