日本繁殖生物学会 講演要旨集
第104回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-18
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生殖工学
子宮内移植後のヒツジ体内におけるヒトおよびサル造血の長期生着に及ぼす要因
*新田 卓阿部 朋行増田 茂夫林 聡花園 豊長尾 慶和
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抄録

【目的】多能性幹細胞を任意の組織幹細胞へ分化誘導することは、ヒト再生医療の実現に向けた重要なステップである。我々はこれまでに、ヒト造血幹細胞(HSC)または中胚葉系へ初期分化させたサルES細胞を妊娠1/3期のヒツジ胎子肝内に移植することで、骨髄内にヒトまたはサル造血をもつヒツジ(キメラヒツジ)を作出することに成功した。また、骨髄内に含まれるヒトまたはサル造血細胞の割合(キメラ率)の向上を目的に、レシピエント側の生着環境の整備として、ヒトにおける骨髄移植前処置剤であるブスルファン(BU)のヒツジ胎子への投与、移植細胞の強化として、HSCの自己複製遺伝子であるHoxB4のHSCへの強制発現ならびに霊長類HSCにのみ増殖刺激効果のあるヒト幹細胞因子(rhSCF)のキメラヒツジへの投与について検討し、それぞれ生後のキメラ率を向上し得ることを明らかにした。今回は、骨髄内に生着したヒトまたはサル造血の長期的生着に及ぼす要因について検討した。【方法】HSCおよび初期分化サルES細胞を、妊娠45-79日齢のヒツジ胎子肝内に移植した。BU群:HSC移植6日前に、BUを母体静脈内へ投与した。HoxB4群:センダイウイルスベクターによってHoxB4遺伝子を一過性に強制発現させたHSCを移植した。SCF群:生後のキメラヒツジにrhSCFを腹腔内投与した。無処置群:無処置のヒツジ胎子に対しHSCを移植した。生後約1および7-13ヶ月におけるキメラ率を、コロニーPCR法によって評価した。【結果】BU群(n=4)、HoxB4群(n=4)、SCF群(n=4)および無処置群(n=6)のキメラ率は、生後1カ月ではそれぞれ1.9±1.1、1.7±1.4、1.2±0.3および0.0±0.0%と、無処置群に対して処置群で高く(P<0.05)、処置群間に差はなかった。生後7-13ヶ月ではそれぞれ0.0±0.0、0.8±1.1、1.1±0.0および0.0±0.0%と、HoxB4群およびSCF群において高かった(P<0.05)。【結論】ヒツジ骨髄内へのヒトまたはサル造血の生着において、レシピエントの生着環境の整備は短期的には有効だが、長期生着には移植細胞に対する直接的刺激が効果的であることが示唆された。

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© 2011 日本繁殖生物学会
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