【目的】受精直後の初期胚発生段階に起こる胚性ゲノムの活性化(zygotic gene activation, ZGA)の開始には、母性タンパク質の分解が必要であると言われている(Li et al., 2010)。細胞内のタンパク質分解制御機構には、主にユビキチン・プロテアソーム経路(ubiquitin-proteasome system,UPS)やオートファジーなどが存在し、真核生物において様々な生命現象に関わっている。我々はこれまでに受精直後一過性(1-9hpi)にプロテアソーム活性を抑制すると、ZGAの開始が遅延することを明らかにした(Shin et al., 2010)。本実験では、UPSによるタンパク質分解系が、ZGA開始における分子制御機構を明らかにするために、より詳細に受精直後の初期胚におけるプロテアソーム活性阻害剤MG132の高い感受性時期について検討し、この時期に分解されるタンパク質の同定を行った。【方法】過剰排卵処置を行ったICR系マウスを用いてHTF培地にて体外受精を施し,cyclin B1の分解後(媒精1時間後)、MG132を5μMで添加したKSOM培地で1-3、3-6、6-9、3-9、1-9hpiの時間で培養を行った。その後、MG132未添加のKSOM培地に培養し、その後の胚発生を観察した。次に、MG132処理した初期胚からタンパク質を抽出し、電気泳動で展開後、質量分析によって解析した。【結果】受精直後各時間でプロテアソームの活性を抑制すると、3-6hpiの時間でプロテアソーム活性を抑制した胚において3-9hpiで活性抑制した胚と同様に着床前胚発生が遅延することを明らかにした。さらに、MG132処理した初期胚抽出タンパク質を展開したところ、MG132処理の影響を受けたと想定された複数のバンドを検出した。現在、これらのタンパク質の同定を行っている。