【目的】ミトコンドリアは細胞のエネルギー生産やアポトーシスなど重要な生物現象に関与しているが、胚におけるその生物学的機能には不明な点が多い。本研究では、マウス初期胚におけるミトコンドリア呼吸機能の解析を目的に、(1) 酸素消費量、(2) 活性型ミトコンドリアの局在、(3) ATP含量、(4) シトクロムcオキシダーゼ (Cox) 遺伝子の発現を調べた。【方法】ICR系雌マウスに過排卵処理を行った後、雄マウスと交配させ卵管及び子宮潅流により胚を回収した。 (1)酸素消費量測定は「受精卵呼吸測定装置」を用いて測定した。(2) 活性型ミトコンドリアは MitoTracker Orangeを用いて検出した。(3) ATP含量はBacTiter-Glo microbial Cell Viability Assa kitを用いて測定した。(4) Cox遺伝子発現は、RT-PCRを用いて解析した。【結果】胚の酸素消費量は発生に伴って増加し、桑実胚から胚盤胞において顕著であった。活性型ミトコンドリアは、2細胞及び4細胞期胚において細胞内にほぼ均一に存在し、8細胞期胚では細胞外縁部に、桑実胚から胚盤胞期では核周辺にクラスターを形成していた。ATP含量は、8細胞期までは発生に伴い増加した後、桑実胚で有意に低下した。Coxサブユニットの遺伝子発現を調べた結果、ミトコンドリアゲノムにコードされるCox1、Cox2及びCox3は、1細胞期から胚盤胞期までの全ての発生ステージで発現していた。一方、核ゲノムにコードされるCox5a、Cox5b及びCox6bは、2細胞期以降徐々に発現量が増加した。また、Cox4は全ての発生ステージで発現は認められなかった。以上の結果から、マウス胚におけるミトコンドリア呼吸機能は、胚発生に伴って成熟することが示唆された。また、ミトコンドリアゲノムと核ゲノムによってコードされるCox遺伝子は、初期発生においてそれぞれ異なる発現パターンを示すことが明らかになった。