【目的】ミトコンドリアは細胞のエネルギー生産やアポトーシスなど重要な生物現象に関与しているが、胚発生における生物学的機能には不明な点が多い。本研究では、ウシ胚におけるミトコンドリア呼吸機能変化の解析を目的として、(1)胚の酸素消費量、(2)活性型ミトコンドリアの局在、(3)ATP含量、(4) シトクロムcオキシダーゼ (Cox) 遺伝子の発現を調べた。【方法】ウシ卵巣から卵丘細胞−卵子複合体(COC)を採取し、IVMD101培地(機能性ペプチド研究所:IFP)で22時間成熟培養を行った後、IVF100(IFP)培地中で媒精した。受精卵は、IVD101培地(IFP)を用いて、5 % O2/5 % CO2/90 % N2 、38.5 ℃の低酸素条件下で培養し、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実胚、胚盤胞を回収した。(1)酸素消費量は「受精卵呼吸測定装置」を用いて測定した。(2) ミトコンドリア膜電位は、蛍光プローブJC-1を用いて染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。(3)Cox遺伝子の発現は、ウシCox mRNAに特異的なプライマーを独自に設計し、RT-PCR法によって検討した。【結果と考察】胚の酸素消費量は桑実胚から胚盤胞において顕著に増加した。ミトコンドリアは2細胞期胚では細胞質にほぼ均一に局在していたが、呼吸活性の高い胚盤胞では核周囲にクラスターを形成していた。ミトコンドリア膜電位活性は、2細胞期胚に比べ胚盤胞で高かった。Cox遺伝子の発現を調べた結果、Cox1、Cox3、Cox4、Cox6bは全ての発生ステージで発現していたが、Cox1の発現は8細胞期胚で顕著に低かった。Cox5a及びCox5bは2細胞期と8細胞期で発現が認められなかった。以上の結果から、ウシ胚のミトコンドリア呼吸機能は胚発生に伴って成熟することが明らかになった。