【目的】X染色体不活性化は,哺乳類の雌において二本あるX染色体の一方を不活性化する機構であり,Xist遺伝子の発現によって開始される。マウスの場合,通常の受精を経た初期胚では,Xistは精子由来のX染色体からのみ発現し,卵子由来のX染色体からは発現しないというインプリント発現を示す。一方,体細胞核移植胚では両X染色体からXistが異常発現することから,Xistのインプリントが生殖細胞特異的に存在することが示唆される。しかしながら,Xistのインプリントについては,その性依存性,確立時期,そして実体さえも明らかでない。そこで,本研究では各発生段階の雌雄生殖細胞をドナーとした核移植胚でXistの発現を解析することで,Xistのインプリントの性依存性および確立時期を明らかにすることを目的とした。【方法】コントロールとして,雌雄の体外受精胚を用いた。雄性生殖細胞由来胚として,始原生殖細胞,生殖幹(GS)細胞,円形精子細胞(2個/卵子)の核移植胚を,そして雌性生殖細胞由来胚として,単為発生胚あるいは卵胞卵子由来胚を用いた。培養48時間目(4-cell期)以降の胚のXistの発現を,定量RT-PCRあるいはマイクロアレイ,RNA-FISHにより解析した。【結果】雄の体外受精胚においてXistの発現は見られなかったが,調べた全ての雄性生殖細胞由来胚で4-cellから胚盤胞期まで発現が観察された。雌の体外受精胚では,Xistは4-cell以降のほぼ全ての割球で片親性の発現を示したが,単為発生胚および発育卵胞卵子由来胚では,Xistの発現は4-cellでは見られず,桑実期胚以降に一部割球の片方のX染色体のみで観察された。以上の結果からXistは,体細胞-雄性生殖細胞を通じて,胚性遺伝子活性化により発現が誘導されるdefault(非インプリント)状態にあり,この発現を抑制するインプリントは,卵子発育期においてのみ確立されると考えられる。