抄録
【目的】ホンモロコは琵琶湖の固有種であり,食用としても貴重な生物資源である。しかし,その個体数は保全の検討・実施がなされているのにも関わらず減少し続け,現在は絶滅危惧ⅠA類に指定されている。本研究では種および遺伝資源の保存を目的としてホンモロコ雄性生殖細胞の培養およびin vitroにおける精子分化を試みた。【方法】繁殖期のホンモロコより精巣を摘出し細切後,コラゲナーゼ処理を行った。遠心操作により精子を除去して得られた精巣細胞を,成長因子を添加したゼブラフィッシュ精子分化用培養液に懸濁し,18℃で培養した。培地交換を3~4日毎に行い,細胞の分化および精子形成の有無を観察した。また,細胞増殖を確認するため5-bromo-2'-deoxyuridine(BrdU)を48時間暴露し,11日後に抗BrdU免疫染色を行った。さらに,in vitroにおける減数分裂の進行を確認するため,培養細胞をヨウ化プロピジウム(IP)を用いて核染色後,フローサイトメーターにより核相の解析を行った。【結果・考察】培養開始2日後から,精原細胞様の核の大きな細胞と一回り小さな精母細胞様の細胞の接着,およびその周囲で活発に運動する精子が認められた。また,精子形成は培養開始から3週間経過後においても確認できた。免疫染色によりBrdU陽性の精子を確認できたことから,本培養条件下で精原細胞が増殖し,精子が形成されたことが明らかとなった。また,フローサイトメーターによる解析により一倍体,二倍体,四倍体の核相を示すピークを確認できたことから減数分裂が正常に進行していることが示唆された。今後,形成された精子の受精能の確認,および非繁殖期の精巣を用いたin vitro精子形成を試みる予定である。