日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: AW-3
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精巣・精子
哺乳類の新規の精原幹細胞(SSCs)ニッチの発見
*相山 好美金井 克晃
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抄録

【目的】哺乳類の精原幹細胞(SSCs)は,精細管の基底区画に存在し,周期的に精子発生細胞へと分化する一方で,自己複製により一定数に維持されている。SSCsの自己複製には,セルトリ細胞から分泌されるGDNFが必須である。GDNFは,SSCsの細胞膜表面のGDNF受容体であるGFRα1を介して作用し,濃度依存的にSSCsの自己複製/分化抑制に機能する。SSCsの維持に関わる多くの知見は,ハエ, 線虫などの無脊椎動物での研究成果による。これらの精巣は,哺乳類の曲精細管と類似した管状構造をとり,基部にはSSCsが維持される特殊な体細胞環境(SSCsニッチ)が存在する。一方,哺乳類のSSCsは曲精細管全域に存在し,マウスでは血管周囲の領域に高頻度に見出されている(血管ニッチ)が,その本質は未だ不明点が多い。本研究では,直精細管内の弁状構造(Sertoli Valve; SV)に着目し,哺乳類の新たなSSCs供給源を同定することを目的とする。【方法】ハムスター(Syrian),マウス(ICR) の精巣(8週齢)をPFA固定後,切片標本およびSVを含む精細管断片標本を作製し,組織学的に解析を行った。【結果および考察】SVを含む精細管断片標本の免疫染色と形態計測の結果,ハムスター,マウスともに,SV領域では,GFRα1+ /PLZF+のSSCsが高頻度に集積し,c-KIT+の分化型精原細胞は欠失していた。ハムスターでは,100%の精細管断片(72/72本)にてSV領域へのSSCsの定着が認められ,21.2%の断片では精巣網との境界部にSSCsのリング状の配列が認められた。一方,マウスでは,SV領域へのSSCs の定着が認められる断片は87.0% (80/92本)であり,リング状の配列も認められなかった。共焦点による3次元再構築の結果,リング状のSSCsでは,有糸分裂像が高頻度に観察された。また,GDNF発現は,両種ともに,ステージ依存的な発現を示す曲精細管のセルトリ細胞と異なり,SV領域では恒常的に高い発現を示した。以上の結果は,ハムスターのSV領域に哺乳類の新たなSSCs供給源が存在する可能性を示唆するものである。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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