日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: AW-6
会議情報

生殖工学
マウス卵母細胞におけるゲノム刷込みの分子機構
*原 聡史川原 玲香尾畑 やよい河野 友宏
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【背景】哺乳類では,生殖細胞形成過程で付加される性特異的なDNAメチル化修飾(刷込み)により,受精後の胚発生で片親性遺伝子発現が行われるよう制御される。これまでに我々は,非成長期(ng)卵では刷込みが存在せずフルサイズの卵に成長する過程で確立することを明らかにしてきた。また,刷込みにはDNAメチル基転移酵素DNMT3Aとその補因子DNMT3L(DNMTs)以外に,領域をまたぐ転写が必要だが,詳細な分子機構は未だ不明である。本研究では,ng卵における刷込みの欠如がDNMTsの欠如によるのか,或いはそれ以外の機構が必要か明らかにすることを目的に,ng卵における転写の有無を検証すると共に,DNMTsを生殖細胞で発現するTgマウスを作出し,Tg卵における刷込み確立を解析した。【方法】卵は既報に従い採取し,転写産物はRT-PCRにより解析した。TgマウスはloxP系を用い,Vasa-Creマウスとの交配により卵でDNMTsの発現を誘導した。DNMTsの発現は定量PCRとウェスタンブロットにより,DNAメチル化はBisulfite法により解析した。【結果】野生型(WT)マウス卵におけるRT-PCRの結果,ng卵で転写が認められたのはSnrpnだけであった。次に,Tgマウス卵におけるDNMTsの発現解析の結果,すべての成長ステージで過剰発現が認められた。これらのTgマウスを用いてng卵における刷込み領域のメチル化解析を行ったところ,Igf2r(Tg vs WT; 20% vs 0%)以外は非メチル化状態であった。一方,Tgマウス成長期卵ではメチル化の獲得が早期化する領域(Zac1, 92% vs 29%)としない領域(Snrpn, 17% vs 20%)が確認された。以上の結果から,ng卵におけるDNMTsの発現は刷込み確立に十分でないことが明らかとなった。また,卵ゲノムがDNMTsを許容する状態へ変化することが刷込み確立には必須であり,これには領域毎に転写の他にも異なる機構が存在する可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2013 日本繁殖生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top