日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-14
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卵・受精
マウス初期胚におけるクロマチン再構成タンパク質Chd1に関する研究
*鈴木 伸之介野澤 佑介塚本 智史金子 武人今井 裕南 直治郎
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抄録

【目的】Chd1 (Chromodomain helicase DNA binding protein1)はトリメチル化したH3K4に結合し,RNAスプライシングに関与することや,ES細胞では多能性の維持に関与することが明らかにされている。しかし,これまでのChd1の研究は培養細胞やES細胞における役割を解析したものが主であり,ほ乳類の生殖細胞における役割を解析した報告はない。そこで本実験は初期胚におけるChd1の役割について検討を行った。【方法】マウス1細胞期胚にChd1を標的とするsiRNAを顕微注入し,Chd1の抑制効果および胚の形態,発生率,脱出胚盤胞率について経時的に検討を行った。次に,免疫蛍光染色によって胚盤胞期胚におけるOct4,Cdx2のタンパク質の量と局在について比較解析を行い,その正常性を確認するためにoutgrowth実験によるコロニー形成能について検討した。これらの実験結果を踏まえて,桑実期胚以降にOct4,Cdx2の転写制御をすることが知られているHmgpiの発現量を定量PCRによって解析した。さらに,Hmgpi mRNAをChd1抑制胚に顕微注入し,胚盤胞期胚におけるOct4とCdx2のタンパク質の量を免疫蛍光染色によって確認した。【結果】Chd1抑制胚では受精後から5.5日後まで形態的な異常は見られず,胚盤胞期胚までの発生率,脱出胚盤胞率にも影響はなかった。しかしながら,Chd1抑制胚においては前期2細胞期から胚盤胞期胚までChd1の発現が有意に抑制されていた。また,胚盤胞期胚を用いて免疫染色を行ったところ,Oct4,Cdx2タンパク質の局在に変化はなかったもののタンパク質量は有意に減少していた。さらに,Chd1抑制胚ではICM由来のコロニー形成能が対照区と比較して著しく低いことが示された。また,Chd1抑制胚においてはHmgpiの発現が有意に抑制されていたことから,Chd1抑制胚にHmgpi mRNAを顕微注入したところOct4,Cdx2のタンパク質量が胚盤胞期胚において対照区と同程度まで回復した。以上の結果から,マウス初期胚においてChd1は,着床前のOct4とCdx2の発現をHmgpiの転写を調節することで制御していることが示された。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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