【目的】マウスは系統によって産子数や胚発生能に大きな違いがあるが,この理由は明らかになっていない。これまで我々は,ミトコンドリアが胚の品質を決める上で重要であることを明らかにしてきた。本研究では,胚の発生とミトコンドリア機能との関係に着目し,系統間での胚発生能とミトコンドリア呼吸機能の違いを詳細に解析した。 【方法】過排卵処理したB6C3F1,ICR,C57BL/6NおよびBALB/cA系統の雌マウスから1細胞期胚を回収し,mWM培地を用いて37℃,5% CO₂ in airの条件で培養した。リアルタイム培養細胞観察システムの高感度カメラを用いて5分毎に160時間以上タイムラプス撮影を行い,胚の発生率および発生速度を解析した。ミトコンドリア呼吸機能を解析するために,受精卵呼吸測定装置(HV-405)を用いて胚の酸素消費量,BacTiter-Glo microbial Cell Viability Assay kitを用いてATP含量,JC-1染色によりミトコンドリア膜電位活性を調べた。 【結果】B6C3F1,ICR,C57BL/6NおよびBALB/cAの胚盤胞発生率は,それぞれ83.8%,67.2%,64.0%,39.2%,胚盤胞ハッチング率はそれぞれ66.2%,74.8%,17.2%および32.1%と,いずれも系統間に顕著な違いが認められた。胚のATP含量と酸素消費量は,B6C3F1においていずれも最も高く,ICRではATP含量,C57BL/6NではATP含量と酸素消費量がB6C3F1と比べてそれぞれ有意に低かった。一方,BALB/cAでは酸素消費量,ミトコンドリア膜電位活性およびATP含量の全てが全系統の中で最も低かった。胚発生能が最も高いB6C3F1は高いミトコンドリア呼吸機能を有していたのに対し,BALB/cAでは胚発生能およびミトコンドリア呼吸機能が最も低かった。これらの結果から,系統間でみられる胚発生能の差は,ミトコンドリア呼吸機能の違いに起因している可能性が考えられた。